(だいすきなともだち。)
kaname
2022/1/13 18:37 [4]
(生まれ育った故郷を離れ、山間の集落に移り住んでから七年が経過した。あの夏、少年が孤独を紛らわすために打ち上げていた花火を見つけてくれた彼らとも、今や家族同然の仲である。生まれも育ちも違う人々が集まっているから、時には喧嘩をすることもあるけれど、人口10人の村での暮らしはおおむね平穏無事だった。昼は村人一同で田畑を耕したり、川魚を釣りに出かけて、夜は育てた作物や釣りあげた魚を皆で食べた。依然として電気やガスが自由に使える環境ではないけれど、これはこれで悪くない。文明が栄えているより、隣で笑ってくれるひとがいることの方がずっと大切だ。――人類の栄光にまごころなど不要だと切り捨てた者たちが滅ぼした世界に生きるから、尚更そう感じるのかもしれない。朝食の塩おにぎりを口の中に詰め込んで、村の広場に向かう。そこには数人の子どもたちが居て、口々に「おそいよー」「またねぼうしたの?」と文句を言ってくる。かつて少年だった男が村にきてから生まれた、大切ないのちだ。)いいだろ、たまには寝坊したって。大人はいろいろ大変なのー。(「かなめがおきないのは、いつもだし!」子どもたちの中でも一番背の高い少年に指摘されて、何も言い返せなくなる。それはさて置きとちびっ子たちの前に立つと、彼らはいつものように地面に座って、話が始まるのを大人しく待っている。この村で生まれ、この村で育った彼らは足腰こそ丈夫だけれど、読み書きや計算を教わる機会が無かった。もし彼らが大きくなって、広い世界を旅したくなった時、残された看板が読めないと困るだろう。だから、まずは数字の数え方とひらがなを教えておいてね。そう頼まれて――というより押し付けられて、午前中はちびっ子たちの先生をしている。みんなで収穫した野菜の数を数えたり、ひらがなだらけの絵本を読むこともあれば、歌をうたったり、かけっこをする日もあった。今日は何をしようか。子どもたちの顔をぐるりと見渡してから、視線を空にやる。雲ひとつない青空だ。)……そうだな、今日はお勉強じゃなくて俺の友達の話をしようか。俺がこの村に来る前に遊んでた、だいすきな友達の話。(彼らの目の前に腰を下ろして、青年は語り始める。小さなまんどらごらと少年が生きた日々の話を。記憶は少しずつ薄れ、今ではその笑い声すらおぼろげな記憶となってしまったけれど、彼と過ごした日々の小さな幸せを忘れることはない。いつまでも、いつまでも。)
2022/1/13 18:37 [4]
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