キョウ
2021/12/12 01:38 [39]
(過日、教団は世界の終末を予言していた。教団の教えに忠実に従えば、いずれ来る破滅から救われると喧伝していた。信者の一人は終末を信じていたが、己の救いは信じていなかったらしい。その信者は教えよりも、破滅を免れる用途の地下シェルターの作成を全うした。たまたまシェルターの存在を知っていたキョウは、光と熱があまねく地上に降り注いだ日にそこへ逃げ込んだ。利用者は、ひとりだけだった。安全地帯の本来の主はとうとう現れなかった。たどり着く前に果ててしまったのだろう。頃合を見計らって外に出てみると、世界は一変していた。文明の壊滅は、無信心のキョウに言わせれば皮肉な偶然だ。無人の店舗で拾った新聞を読んで、大きな戦争が起きたことを初めて知った。数多の国々の戦いは行き着くところまで行き着いて、人影の絶えた廃墟ばかりの光景が出来上がったわけだ。それから、天候や温度や湿度や自然の移り変わりの告げる、四季の巡りを三回ほど経た。はじめの季節に旅を始めた。少女の四肢の嫋かかつ余分な肉は削げ、肌は日焼けした。大きなリュックサックを背負っての長距離の移動もいつのまにか慣れた。それと慣れたものはもう一つ、たったひとりの『友達』の存在。――現時点の目的地は、とある都市の商業区。そろそろ水や食料の補給をしたいし、次の季節の寒さを凌げる道具を獲得したいから、物資調達の見込める場所を目指している。歩きながら、ポケットから取り出した周辺地図を広げ目を通す。教団に居た頃の環境は限られていたから、地図というものを実際に使うようになったのは最近だ。地図の見方にまだ不慣れで、近くの剥がれかけの街区表示と何度も見比べる。それでもまだ、少し自信をもてない。確証なしの行動は好みじゃない。眉と口許が硬くなる。)……ねえ、(顔の硬さもそのまま、ちらっと振り返った。友達の姿は、視界に引っかかったか。滅びの前から孤独が当たり前だった。滅びの後に誰かに会いたいと思ったためしもないけれど、無愛想ながら話しかける回数は何故か着実に増えている。)商業区への道は、こっちで合ってる……?(罅割れて、ところどころ雑草が顔を覗かせるアスファルトをスニーカーの靴裏で踏む。あたりには、庭付きのカラフルな、しかし今となってはいささか寂れた住宅が並んでいる。勿論、窓の奥は薄暗くて、静寂に満ちている。)
2021/12/12 01:38 [39]
クロウ
2021/12/12 16:15 [55]
(はじめてこの影がかたちを得た時のこと。人型を模した唇は第一声に、「貴女のこれまでの物語をお伺いしても?」と飄々宣った。彼女の願いか記憶か、はたまた無意識かが造り出したに過ぎぬ思念物は、だからこそ彼女の半生をある程度は知っている“つもり”ではいるが、それは彼女自身の口から訊く事に何よりの意義がある行為だった。彼女の過ごした過去が、それまでの感情が、これからに向けた思いがすんなりと訊き遂げられたならば良し、叶わなければどれ程の時間を掛けたって良かった。何せ時間は急かすでもなく、たっぷりとあるのだから。影法師に言わせれば、ここは終幕ではなくまだほんの序章、ちょっと大げさに世界がひっかき回され幕を閉じた第一幕に過ぎなかった。第二幕。──演者の片割れはその時、地図と世界とをにらめっこする彼女の傍らで、いつもよりも少し力の籠っているパーツを好ましげに眺めていた。ついさっきまでは、通りすがりの朽ちた四輪車を見てはああだこうだ、遠くに見えた物体Xをやいのやいのと、返事の有無を問わずに随分と賑やかにしていた。地図を真剣に見つめている時間は少し黙る。その事を覚えたのは、彼女が地図を使い始めて少し経ってからの事だ。その間もずっと、ぎざぎざとした歯を剥き出した愉快げな笑顔が彼女を見下ろしていた事だろう。彼女の視線と問いかけを、発言の許可と捉えた。許可がなくても喋るとはいえ、第一印象から徐々に変わりつつあるその変化もまた、好ましく感じるものの一つだ。)──ええ、ええ! もちろん。私もそう思いますよ。この辺りに人が住んでいた痕跡はありますしね。この先に商業地区を造ろうとする発想は、立地としても理に適っているかと!(覗き込んでいた姿勢から胸を張り、全く迷いもしない声で彼女の後押しをする。ろくに地図も見ていなかったが、相手が欲しがったものは正確な答えではなく、自分の中にある答えを一歩押す声だと思ったが故に。もし違っていたとしても、「ま、こんな事もあるでしょう!」そうあっけらかんとお道化て引き返せば良いだけの事なのだ。目深にした赤いフードを指先に直し、靴先を割れた地面にカツンと鳴らし。彼女が迷っていた方角への一歩を先に踏み出しがてら、くるりとその場に回って彼女の様相を仰ぎ見る。)時に主。──少々歩き詰めのようですね。御身の休息は、まだ不要ですか?
2021/12/12 16:15 [55]
キョウ
2021/12/13 15:42 [69]
(出逢った当初は面食らったものだ。見渡す限り生者の痕跡はなかったので、実体のない影だとすぐに理解はしたけれど。キョウとはまるでかけ離れた存在。飄々として、仰々しい言動のこの人物を想像する力がまさか自分の内に眠っていたのかと意外に思った。これまでの物語を問われて、不機嫌そうに眉を潜めながらも拒絶はしなかった。その時は他にタスクもなく、暇だったから。多分、理由はそれだけ。キョウは共同体の維持と拡大、その目的のために信者のオスとメスをかけ合わせて生み出された。親子関係に意味はなかったから、親が誰であったかも忘れてしまった。そこから始めてぽつりぽつりと語り、なんら面白みのない窮屈な過去だったと不機嫌顔のまま述懐して締めくくった。――「クロウ、うるさい」 道中もにぎやかな相手へ、足を動かしつつやはり不機嫌そうに淡々と放つ。しかしながら、話を止めろとの要請はしない。旅を始めた頃は、破損のない自動車を見つけると窓を割って試行錯誤したものの、結局は動かす方法もわからずじまい。以降は見かけても放置するようになった。それでも片割れの語る四輪車には、今まで知らなかった色を見出した。遠くの物体は風に飛ばされたビニール袋に違いないけれど、あんなに高く舞うものか。地図を前にすれば集中の一時。空気を揺らすは微かな紙音のみ。)……なるほど、理にかなっている。やっぱりこの道なりに進むとよさそう。(人の多く住まう場から需要は生まれる。その近くに提供の場が設けられるのはいかにもな話だ。進行方向の後押しを貰うと、片割れに向かって頷いてみせた。小さな安堵で、少しだけ顔面が緩む。後ろに続いてすぐさままた歩き出そうとした時、)……休息?(眼鏡の奥の双眸をぱちくりと瞬かせる。言われて意識してみればたしかに、肉体は少々の疲労を覚え始めているけれど。)休息よりも先に、やらなきゃいけないことを終わらせるべきでしょう。(きっぱりと告げる。物資の調達は必要とはいえ、この優先順位はそれよりも性分ゆえ。ただし。えっと、と言い淀み、)……クロウが疲れたなら、休んでもいいですけど?(緊張のせいか、若干、語尾が揺れてしまう。時たま敬語が飛び出すのは、以前の生活の名残だった。)
2021/12/13 15:42 [69]
クロウ
2021/12/14 19:07 [85]
(世界と共に終わった半生を彼女自身が“なんら面白みのない過去”だと形容するならば、道化はこれまた仰々しい素振りでもって首をふるい、彼女が身をうずめざるを得なかった状況下で見慣れているであろう笑顔とは対極に存在するかのような、大口を品なく広げた笑顔で笑い飛ばして見せた。──いやはや何を仰います。今やこの世界の主人公となられた貴女の人生に、面白みがない筈もないでしょうに! そうして語って訊かせてくれる物語を興味津々と、時に腹を抱えて笑って、怒り惑い、涙を流したしまいには、拍手でもって語り手を讃えた。非凡な主人公には悲劇的な過去があるように、蝶々がひらはらと舞うまで殻に閉じ込められるように。彼女にとってもまた、その窮屈さは必要なものであって、だからこそ抑圧から解放された“今”は輝くのだと。 ──「おっと失礼!ボリュームのつまみをひとつ下げましょう!」まったくもって謝意のない声は変わらず喧しい。そうして窘めながらも、些細な発見を逐一はしゃぐ影にその時々、意識を向けてくれている事を知っているからだ。 そうして一息、先までは不安げな色がちらついていた表情の和らぎに、大人びた表情から垣間見た年頃らしさの鱗片にはニッコリと、これまた胡散臭げな笑顔を深くしたものだけれど。)おっと手強い…──いえ、凛々しく聡明な貴女らしい返答ですね。(作戦失敗。とばかりに、一時肩を落とした。自分が知る過去の姿よりも逞しく見えるとはいえ、荷物のひとつも肩代わりはできない身にとって、出来る事といえばやはり、小まめに口を挟んで彼女に無理をさせない事くらいなのだ。またあとでせっつくとするかな。具体的には5分後くらいに。等々、思案気に顎をひと撫でしていた手が束の間呆けて、それからパン!と高らかに打ち鳴らしては彼女の目前にぐっと近づき、深々とお辞儀をして見せた。)……ああ主、温かなお気遣いに感謝します! 実は、ちょ〜〜〜っとばかり前から、小石をぶつけた小趾が痛むなあ、少し休みたいなあ……なあんて図々しく思っていたところです!(うすら感じ取れる緊張など、吹き飛ばしてしまえるように。いつもの調子で騒ぎ立てた男は、それから周囲を見渡し「あちらの腰掛けなんて如何です?」と、忘れ去られたように朽ち果てた、やや土埃にまみれたかつて長椅子だったものを指し示した。叶うならばそのまま、手を取り伴う心積もりではあるけれど。)
2021/12/14 19:07 [85]
キョウ
2021/12/15 23:01 [102]
(この歩みの本当のはじまりは思うに、クロウの言葉だった。主人公だなんて実感はなかったけれども、地球の滅亡は、何者にも邪魔されない現在の状況は自分にとってはたしかに解放だった。まだ、自分はこの世界を何も知らない。まだ、開幕したばかりなのだ。よしんば輝けたとしたって、呆れるほど反応の大きなフードの人物を除けば、拍手をくれる観客も存在しない。それでもその時に、踏み出した一歩からここまで続いている。高らかに打ち鳴らされる音が、意識をひきつける。一息に迫った、目の前の相手にはっとして、警戒心の強い小動物と同様の面食らった素振りで反射的に上半身を退かせる。お辞儀を眺める双眸は胡乱なものを見る目だ。騒々しい展開によって緊張は押しのけられていた。)もうっ、おばか、間抜け。小石にぶつけられるなんて、器用の域じゃないの。(リュックサックのベルトを左右の手の内側に握りこみ、そっぽを向いて鼻を鳴らす。)……しょうがないですね。無理に歩いて悪化してもいけないし、少しだけ休みましょう。(ぷりぷりと怒った空気を放ちながらも、指し示された先の長椅子の残骸に目を向ければ首を縦にし賛成を示した。ふと引っかかった感触は、取られた片手。二人の手から片割れの顔へ移らせた視線は、先程よりもさらに胡散臭いものを見る目だ。じとっとした半眼になっている。)……、あのねえ。これじゃ、逆じゃない。逆! 辛いのは君なんだから。(忌々しそうに唇を噛むやいなや、彼の手をひっつかみ、長椅子の前まで引っ立てるように連れて行った。支えるというより引っ張っていった。完璧に綺麗にはできないが、椅子の土埃をできるかぎり手で払いのける。)――ほら、座って。十分間だけですからね。(片割れを睨みつけつつ長椅子の座面へと人差し指の先端を突きつけ、命令の形。丁寧に地図を仕舞いこんだ後の上着の、ポケットの一つから次に取り出した物は、アンティークな懐中時計。いつぞや、どこかの民家で発見して勝手に失敬した物。手巻き式だから電池要らず電波要らずで時間を測れて重宝している。十分の針の働きが確認可能な角度で椅子の隅にそれを置いてから、控えめに肘掛けらしき部分に腰を下ろすだろう。きょろきょろと瞳が動きがちなのは、何かと周囲を観察したがる趣味のせい。)
2021/12/15 23:01 [102]
クロウ
2021/12/17 21:51 [125]
(いつか。来るかも遇うかもわからない、けれどその希望を棄てるには未だ惜しい一つの事柄。影を引き連れ主演を務め上げる彼女の輝きを、いつか見つけてくれる“n”との出逢いの可能性だ。それは確かに影に付きまとう一つの思念であり、それを覗かせる訳でもなければ今はただ、貴女の助演も観客もファンも第一号は私ですよとばかりに振舞っている。─ああ、許されるならばそうして清らかな乙女の如し上肢の退き方も、その聊か刺激的な眼差しだって、残る一歩を詰め寄って最高ですねと褒めちぎりたかったけれど、流石に控えた。今この瞬間が壇上と思えばこそ、読む空気と読まない空気を弁えるのが道化師なので。)ふふふ。器用さをお望みとあらば擦り傷で風景画を描き、鼾でオーケストラを奏でて見せますよ?(褒められた訳ではないとは知っていても、可愛らしく並んだレパートリーに胸板を張ってお道化てみせた。口調こそ丁寧な言葉遣いが残ってはいるが、先ほどの緊張具合が解れていれば上々、我が物顔でリュックサックを掴んでいる手を掴みとれたまでは良かったものの。まずはなんだか瞼を重そうにしている視線に気づいた。外套の翳りに負けぬ赤を灯す目は、意図を汲み取りきれずにぱしぱしと帳を開閉させていたが、次ぐ声色、挙動、それから引かれる手にようやく正解を手繰ってから。)……──成る程! ああ、正にその通りでしたね。先導してくれるヒーロー……手を引く強さも眼差しも素敵……あ、どうせならヒロインっぽく振舞いましょうか? 声色高く、守ってあげたい雰囲気とか演出します?(目測できた座面まではそう遠くはなかったのに、まあぺらぺら乾かぬ舌はよく動いた。感動したかと思えば悩み、埃を払って貰っている間には「あ゛ー、あー」と似合わぬ声のトーンで発声練習までした成果を発揮できるかは定かではないけれど。指された通りに腰を下ろして、見慣れた巻き時計と、少し高い位置にある彼女とを見比べた後には「承知いたしました」とウィンクを一つ。程なく、揺れ始めるレンズ越しの動きもしかと見つめた上で、)……主も過去には、こうした家に住んでいた事があったのでしたかな。おうちの屋根の色は? 自分の部屋の事も覚えていますか。(いつもよりも少し声量の静かな、しかし儘ある過去を聴きたがる前振りに首を傾げた。そよぐ風が柔らかに木々を揺らす中、彼女のあり様にじっと見入りながら。)
2021/12/17 21:51 [125]
キョウ
2021/12/19 10:53 [142]
(彼の饒舌はまるでとどまる所を知らない。語彙力と表現力があまりにも豊かなもので、罵りのレパートリーも貧しいこの自分を通して紡がれているとは到底信じられないほどだ。もはや呆れを通り越したような感情が、じとっとした目に一層の趣を乗せるのだった。)――ひ、ヒーロー? あのねえ、事前に相談するのはおかしいでしょう、ヒロインってもう少しこう、自然に可憐で儚い風情がというか……、えっと、ともかく、そんなに舌が高速回転する、喧しいヒロインは願い下げですっ。(想像の埒外の当て嵌め。いつものことで、豊富な言葉にすっかり振り回されている。未熟な少女には捌ききれない。だからせいぜい、ふくれっ面を作るくらいが関の山で。敵わないのに敵わないと認めたくなくて、土埃を払う手つきが荒っぽくなる。努めて払った結果が綺麗とは言い難い事実にはまた苛立ったけれども、片割れが腰を落ち着けるところまでしっかりと見届けた。ところどころ綻びた建物の内部を観察する間、投げかけられた質問に触発されて記憶を辿れば、釣られたように口調もゆったりとしたテンポになる。)……私の住んでいた施設はここよりももっと広かった。でも外に出る許可はあまり貰えなかったから、広いとは思えなかった。屋根の色は灰色……だったかな。何人かの子供達と共同使用の部屋で、私物は殆どなかった。(あたりの内装の一つ一つに移ろいながら過去を重ねたり比べたりしていた眼差しは、壁の割れ目の向こうに、より興味を惹かれる光景を見つけた。商業区の方角に遠目に見えるあの影は、いわゆる大型ショッピングモールとかいう建造物ではなかろうか。これまでの旅路では崩壊した建物も珍しくなかったけれど、あれは比較的に無事のようだ。ショッピングモールを訪れた思い出はない。目的の物資の他にも、未知のあそこにどんなものがあるかと好奇心が湧いてくる。せっかちな爪先で地面を擦ってはちらちらっと懐中時計と片割れの様子を横目に窺っていると、ふいに靴に何かがあたる感触がした。のぞきこんでみれば、箱型のオルゴールが転がっている。汚れを落として弄ってみると蓋が開き、廃墟の空間に音楽が流れ出した。これで少しは時間が速く過ぎるだろうか。)……ねえ、クロウなら、この曲にも物語をつけられるの?
2021/12/19 10:53 [142]
クロウ
2021/12/20 17:30 [159]
(主と呼び慕う少女の心境はどうあれ、その答えはいつだって影を喜ばせた。この時もまた、ラブロマンスを素通りにしたラブコメ、もといコメディカルな言葉に、廃れた道中にけらけらと笑い声を挙げた。手が繋がれていなければ、手を叩きでもしかねない様相だ。ついさっきまでは舞台裾の共演者を気取っていたというのに、今は舞台の一番前を陣取る観客まがいを気取り、「それは残念!」と全く残念がってはいない歓声をあげたものだ。機嫌をちょっぴり斜めにしてしまった彼女の手に払われ切れなかった土埃を気にする事もない。その場に有難く座った座面は、立ち上がった時にはよごれのひとつも付いていない事は分かっていた。──そうして、一転静かな読者の立場に収まったならば。「灰色はナンセンスだと思いませんか?」「子どもが子どもらしく過ごせないのは頂けませんね」、結局出しゃばりな相槌はその時折、頷く唇を割って出ていたけれど。なにか気になるものを見つけた時の素振りは以前にも見覚えのあるもので、砂利の音を立てる爪先も、動く眼差しも知った上で目が合った瞬間には、ニコリとのんびり構えた笑顔で迎えた事だろう。ふとその法則が変化した鉾先には、同じく興味を浮かべた赤目で覗き込んで。だれの置き土産か、彼女の指先を通してオルゴールが内側を、いだく音色を奏でる姿を見守った。対する己は勝手に鳴り出す存在であるとはいえ、ふと発言の蓋を開けてもらえば途端に、満面に喜色を貼り付けぱっと立ち上がったかと思えば、手を広げて一礼をしてみせる。)──ええ、ええ! もちろん。主の退屈を吹き飛ばす物語に仕立ててみせますよ!(それから、チッチッと小さく舌を鳴らしてフードに隠れた耳を叩く。耳を澄ませてのサインだ。まるでその場を知っているかのように、そよぐ風さえ止んだように感ずる一瞬。「貴女にそっくりな音色ですね」、聴き入るメロディーにふと、口をついてそんな言葉が出る。)この弾む音なんて、ちょっと怒りんぼうみたいでしょう。ああ、それにほら、音が跳ねた。元気ですね。(重なる音。速い音。巧く出ずに調子が外れた音。それらに対して立てた人差し指を振りながら、手前勝手にのたまう言葉は果たして、本人の同意を得られるか定かではないけれど──、)さて。……その上で、どういった物語をご所望になりますか。喜劇?悲劇?恋愛劇か、冒険譚──勧善懲悪なんてものも拵えられますが。(あくまでも、興味があるものは彼女の物語であるが故。まだ時計はあと幾許かの雑談を許してくれる時刻である事を知った上で、疑問を疑問で返した影がにんまりと笑っている。)
2021/12/20 17:30 [159]
キョウ
2021/12/21 21:03 [173]
灰色はナンセンスなの? だとしても、今なら、どの色の屋根でも選び放題だね。任意の色に塗り替えたっていい。特に選びたい色もないけれど……、(あらゆるものが、元々は自分のものではない。それは承知している。しかし他の利用者が存在しなければ、何を利用したとてこの世に何ら支障はない。自由だ。とはいえ、何でも選べるこの状況にあっても選べないのは、これといって自分の好きな色など意識した経験がないからだろうか。子どもが子どもらしく過ごすような、もっと違う生き方ができていたら、そう考えたこともあるけれども結局は不毛だ。だって、別の生き方はできなかったのだから。つらつら思考を流しては片割れの姿を瞳に映していたが、ふと、)あ、でも、選ぶとしたら……ひとつ、思いついたかも。(「わかる?」と投げてわずかばかり崩した頬は、妙案を思いついてうずうずする子供っぽさを灯している。瓦礫を挟んで優しく鳴る葉擦れと、オルゴールの音色が響きあう。立ち上がる片割れの勢いにまた驚いてちょっと仰け反り、あやうく取り落としそうになった箱型を慌てて持ち直した。)……ふうん?(予想通り、快く引き受けて貰えるとなると、はしたなさを抑えようとしてもつい漏れでてしまう関心が、またちらっちらっと窺う眼差しに表面化する。そっと、二人の間にオルゴールを置き、彼のサインに従って、メロディーが一巡するまで耳を澄ませた。)……え、そ、そう? クロウったら、すぐ私を題材にしたがるから……。また、私が主人公なの? どんな物語を所望かって?えっと、そうね……、(主の呼称にも、主人公扱いにも、そろそろ慣れてきたような未だ慣れないような。ただ、キョウを中心とする言い回しには、心身共に少々そわそわして落ち着かないのは確かで、眉が微妙な角度を描いていた。改めてオルゴールのメロディへ意識を向ける。浮かぶビジョンはどんなものか。)舞台はキラキラした海?無数の灯りを纏った街?ううーん、そこは任せる。とびっきりのハッピーエンドでお願い。(ささいな時間を気にしがちな性質なれど、今ばかりは時計よりもオルゴールに傾いている。きっと期待がそうさせている。笑う影へとリュックサックごとこころもち身を乗り出し、無意識のうちに両方の手を握り込み、すっかり拝聴の姿勢だ。)
2021/12/21 21:03 [173]