アダム
2021/12/12 10:57 [45]
(人類の滅亡については不可解な点がいくつかある。ひとつは滅亡当時、明らかに強大な衝撃波が地表全体を襲った形跡があるにもかかわらず、男が潜っていた遺跡を含め無事の建造物や自然物がまれに存在することだ。共通点は今のところ見出せていないが、男が今のぼっている石づくりの塔のように、築かれてから比較的長い年月が経過しているものが多い。もうひとつはヒト以外の動物が今もなお生存している点だ。数こそ大幅に減ったようだが、生き残った個体はみな素知らぬ顔で活動を続けている。たとえばこの石塔の最上階。小部屋が設けられたそこに、かつて鳥か何かが窓から入り、植物の種でも運びこんだのだろう。石壁の隙間から芽吹いた蔦や草花は天上から床までをまんべんなく覆い、部屋全体を緑の密室に仕立てあげていた。その緑をサバイバルナイフで切り落としながら室内を物色していると、壁の中に破壊された隠し金庫と黒いアタッシュケースを発見した。部屋の中央にあったテーブルの上でアタッシュケースの鍵を壊して開く。中に詰め込まれていたのは真新しい札束の山。それを見下ろし、深い息をつくと、男はモスグリーンの天井を仰いだ。)クソッ! 大外れだ。(大声で言い放ち、男はケースの中身を両手で掴み出して乱暴にぶちまけた。六畳のジャングルに金の雨が降る。)札束なんかせいぜい火種にしかなりやしない。火種にするにしても、新聞紙の方がよっぽど優秀だろうな。お偉方はなんでドル札を燃えにくい紙にしたんだ?(首の付け根まで伸びた赤毛を太い指で掻きながら吐く悪態は、“ひとり言”にしてはいささか盛大であった。何かを探すようにして振り向けば、気怠げな視線が窓と戸棚、そして象の頭を持つヒト型の男の石像を順に舐める。)なあ、そっちに面白いモンないか?(ここでいう「面白いモン」とは、たとえば書物や生活用品、あるいは写真が収められたアルバムなどを指す。だが男はあえてそれを明言しなかった。“彼”ならばわざわざ声にせずとも伝わると思っていたからだ。息をするたびに濃密な緑のにおいが鼻腔へ絡みつくような部屋の外には、男の目の色とおなじ、澄んだ青空が広がっている。)
2021/12/12 10:57 [45]
Unknown
2021/12/12 19:38 [58]
(人類は滅亡したらしい。不可解なことは数あれど滅亡した前提は揺らがないし、「それ」がまるで人のような形をしてそこに居る事実も揺らぎはしないだろう。滅亡と共にか、それとももっと後か。彼がその存在を認知した時から今までずっと、彼の傍を離れずに、確かに「それ」はそこに在った。――Unknown、彼の相棒。今日もいつもと変わらない賑やかな声が彼の昇り降りするあちらこちらから聞こえて来るのに耳を澄ませながら、聞いているのだか聞いてないのだか分からない顔はこちらも常日頃のもの。今日ははっきりとその顔の輪郭こそ浮かんでいるものの、首から下の身体部分は透き通っていて景色の向こう側が見えている。彼が散らばした金色も被さっては煌めいて。)ぜぇんぜん。使えなさそうながらくたばっかり。新聞紙の切れ端みたいなのもあったけど、纏めて燃やしちゃう?(「面白いモン」の中身を聞き返すことはない。知っているわけじゃない、正しく「伝わる」のだ。人間のようで人間にはとても見えない姿ばかり晒す生き物であればこそ、そんな不可思議は寧ろ違和感を感じさせなかったかもしれない。)でもね。一個いいの見付けたよ。これって、アレでしょ?(彼が来て当初に物色していた場所の丁度陰になる部分。密室の緑と同化しているから目を凝らしてもきっと判別はし難いが、形状からしても、鼻を寄せた時に微かに漂う香りからしても、見付けたものに間違いはなさそうだった。生い茂るのは、書物でもなければ生活用品でもない。然し生きていく上で確かに必要と思われるそれを、滅亡以前の人々は、薬草と呼んでいた。)
2021/12/12 19:38 [58]
アダム
2021/12/13 00:56 [63]
(「それ」が顕現したのは、人類滅亡からちょうど季節が一巡した前年の夏の日だった。普段通り瓦礫の山から「掘り出し物」を漁っていると、不意に自分のものではない声が聞こえ、振り向いた先に自分のものではない顔があったのだ。そう、文字通り、顔だけが。男はロマンを愛するが、ロマンチストではない。したがって、目の前に浮かぶ美青年の頭がおのれの意識によって生み出された幻影であることを早々に理解し、その事実ごと「それ」の存在を受容するのにも時間はかからなかった。ちょうど話し相手を欲していたところだったし、時には第三の目や耳としても役に立つからだ。)がらくたでも構わないさ。気が向いたらコレクションに加えてやるよ。だがコイツは駄目だ。どれをとっても同じ顔で、退屈すぎる。切れ端って、吹っ飛ばされた残骸? それとも何かのニュースの切り抜きとか?(印刷された偉人の顔を片手でペラペラとはためかせながら、首から下がゴーストのように透けた「それ」の姿を眺める。複数の人間の顔を合成していくと一般的に美形とされる顔立ちに近づくという言説を彷彿とさせる、中性的かつ均質的に整った容貌の持ち主は、男が今までに出会ってきた様々な人間の要素を継ぎ足し混ぜ合わせたもののようで、それでいて大抵は曖昧な夢のように不完全な形をしていた。人間という存在に関する記憶の細部が早くも薄れつつあるのか、単にそこが男の想像力の限界なのかは判然としないが。)うん? これは……ハーブだな。お手柄じゃねえか、相棒。(相手が示す方へ歩み寄り、確かに他とは形状も香りも異なる植物をみとめれば機嫌良く口角を弛ませる。「第三の目」とはこういうことだ。物陰の奥のきらめきや微かな音、あるいは匂い。どこかしらの器官が拾ったが、意識の表層には届かず見過ごしたであろう情報を、「それ」が代わりに教えてくれることがある。素直に賛辞を送り、不可視の肩を抱こうと腕を回すが、ふと顔を寄せると挑発的に唇の片端を吊り上げて。)だが、薬が良いモンばかりとは限らないぜ。種類によっては中毒症状や幻覚作用をもたらす代物もある。もしもコイツが幻覚を見せる草だとして、ソイツを俺が食ったらアンタはどうなっちまうんだ?(わざとらしく潜めた声で打ち立てる仮説は軽口の色が強い。ただ、二粒の翡翠を捉えんとする双眸には、元から幻覚とも呼べる存在に対する邪な好奇が入り交じっていた。)
2021/12/13 00:56 [63]
Unknown
2021/12/14 00:50 [76]
(多分、恐らく。本来はもっと怖がられて然るべき存在なのだろう、「それ」は。だが存在自体に彼の自覚が伴っていればこそ、不可思議な存在は忽ちその不可思議さを何処かに放り投げるのだ。リアリストも吃驚な現実の中、現実には有り得ない姿が彼の前に映っているのは、それが彼によって作り出されたものだから。――ということまで、此方は知っているわけで。)退屈は僕もきらぁい。敵だもん。うーん……どっちだろ? 石みたいなのにべっとり張りついてるから、残骸の方だったかも。(新聞紙のように見えたものが実は違った、なんてこともざらである。本当に、頗る、世界は変わってしまった。以前のままの形で残っているものもあるけれど、そうでないものを探す方が容易くて。今居る此処だって数日か数十日か後には様変わりしていて可笑しくもない。日々姿を見えたり見えなくさせてみたりするように、移ろい行く情景について何事かを馳せられるのは、最早彼だけ。)ハーブ! そうそれ。えっへへへ、もっと褒めて褒めて?(賛辞を受けて喜ぶ様は、即ち彼の――などとは深く考えずとも良いことだろう。何せ今こうして彼と生きるように成り立っている世界を、態々分解してみる必要など何処にもない。彼が必要とするから、彼が必要とする限り。たとえその姿を中途半端に晒したとしても、「それ」は彼の目に見え続ける。)げんかく。(諭されるようにも、揶揄するようにも聞こえた言葉の一部を繰り返す。壊れたオルゴールよりずっと出来がいい。)消えちゃわないだろうから、逆かなあ。増えるとか〜……どっかん巨大化するとか!(真剣味が足りないどころか皆無の返答は、幻覚を悪いものとしては全く捉えていない。それに滅亡前ならともかく、幻覚見て取り締まられる法律も人も、もう何処にも居ないのだ。身体に悪いかどうかなんてことは知らん振りだった。それよりも興味が上回ったかのように、身体なしお化けはその瞳を輝かせて彼を見ている。)
2021/12/14 00:50 [76]
アダム
2021/12/14 23:43 [89]
(新聞の切れ端――らしきもの――にも特別な価値は見出せそうにないとわかれば、男は早々に気のない返事をして蒼穹へ視線を投げた。窓という名のアーチ型の壁穴の形にくり抜かれた風景は、身を乗り出してみても青々しい空とだだっ広い更地が広がるばかりで、すくなくともこの石塔の近辺で目を引くものは見つからないだろう。幸い自然というシステムは機能しているため食料の調達には困っていないが、文明はとうに死に絶えており、腐って地に還ろうとしている段階のようにすら感じられる。)イヌみたいだなぁ、アンタ。他にもいいのを嗅ぎつけてくれたら、また褒めてやるよ、イヴ。(目で笑って、無邪気に喜ぶ相手の頭を大きな片手で撫ぜようとする。それが叶えば、柔らかな金糸の感触が、確かな質感をもって男の手の平をくすぐるのだろう。時と場合によって、男は相手を友人のようにも相棒のようにも兄弟のようにも恋人のようにもペットのようにも扱った。その過程でしばしば口遊むふたつの音は、固有名詞というより戯れ半分の愛称としての意味が強い。自在に姿や形を変え、おのれの中に存在する「人間」の集合体であるような彼に特定の名前を紐づけるのは違和感があって、男は唯一の「友だち」の名前を決めていない。)ははっ、ダンボみたいにか? そりゃあいい! アンタが大勢いたら騒々しくてたまらねぇだろうなぁ。(相手が相手ならば男も男で、もう観る機会もないであろうアニメーション映画を引き合いに出しながら不遜に笑ってみせる姿は、おそらく元々の性格に起因していた。)ひょっとしたら、本物の麻薬もどこかに隠してあるかもな。ここはどっかのカルト団体がアジトにしていた場所らしい。ホラ、あれがこの塔の神サマだよ。信者を滅亡から助けてはくれなかったみたいだが。(何の感慨も孕まぬ声色で淡々と告げながら、「それ」とほぼ同じ高さの異形の石像を指さして。)
2021/12/14 23:43 [89]
Unknown
2021/12/16 00:37 [104]
……ワン?(犬みたいと呼ばれたのでとりあえず鳴いてみる。人類滅亡した世界に居るのが人間一人とその幻覚だけでも可笑しな話だが、幻側が犬であればそれはまた奇妙な話。けれど「それ」は彼にだけ見えている存在だから、ともすれば明日には、犬のような姿にだって変わっているのかもしれなかった。撫ぜる彼の掌が受ける感触も、そうすればまた違ってくるだろうか。)他にもか。一番いいのって何だろね。やっぱり人間?(彼以外居ない世界に、居ない筈の存在が問い掛ける。意味合いは死体を指してのそれじゃないと、彼になら優に伝わるだろう。それを肯定するかどうかは、彼の意識に委ねるとして。)他にも潜ってた人が居たかもしんないし。(深い意味がある風でもなしに喋りながら、透けた身体が少しだけ歪んだ。「手が出てきそう……」と腹を押さえる姿は、どう見たって人間ではないけれど。)けど楽しいでしょ。大騒ぎしたいから寝れなくなっちゃうかもね。でもでも、いまよりもっといっぱい色々探せるなって思う!(見えているものが真実ではないから、結局此方が探したものは全て、彼自身が探したものだ。だがそんなことは、話すもしもの楽しさの前ではどうだっていいこと。楽しいことが好きなのは、きっと彼自身に由来している。)じゃ、見付けたら宝の山だ。(自分達にはそうでなくとも、当時の彼等にはの話として。使われなかったそれらを予め知っていたなら、彼等は残さずに使い果たそうとしただろうか。)神サマなんて居たのかな。(は、今此処にある石像でないそれを思って。)
2021/12/16 00:37 [104]
アダム
2021/12/17 00:26 [112]
(人懐こい哺乳類の鳴き声を真似た音が返れば、男は思わず噴き出し破顔した。妙に馴染んでいたものだから。我が幻像ながら時おり想定し得ない反応が飛んでくるのも可笑しくて、男がただひとりの「友だち」に飽く気配はない。)アンタはそう思うかい。(問いかけに返すのは肯定でも否定でもなく、別の疑問符。)俺以外に遺跡の奥に潜ってたヤツがいたとしたら、同業か、物好きの考古学者か、よっぽど人目を避けたい賞金首かもな。何にせよ、アンタの方がまだ扱いやすそうだ。(可能性を端から切り捨てるわけではないにしろ、さほど期待もしていなさそうな冷めた口調を、唇の片端を吊り上げる皮肉めいた笑みで締めくくる。私物のコンパスや天体を頼りに大陸を放浪してきたが、生身の人間はおろか、自分以外の生活の痕跡も発見した試しはない。旅路に思いを馳せる間にもアメーバよろしく変形しつつある相手を眺めては、「わざわざ薬をキメる必要もなさそうだな」と肩を竦め。)おいおい、俺が飼いきれる範囲で頼むぜ。確かにパーティーも恋しいが、俺は「アンタ」がいれば十分だよ。きょうだい。(楽しげにIFを語る姿はやはり大型犬のようであったから、青い目を細めながら手を伸ばし、その首をくすぐるように撫でたがっただろう。)神はいるよ。だが俺たちが思っていたほど全能じゃない。大掃除にしちゃあ、後始末が杜撰すぎるしな。(言いながら、部屋の隅に放置していた革製のボストンバッグを持ってきて、開きっぱなしのアタッシュケースの隣に置きなおす。鞄を開くと、中身を机上の余白に一つずつ並べていった。シガレットケース、空の香水瓶、汚れたぬいぐるみ、靴磨き用のクリーム、CDジャケット、誰かのアルバム、ハイヒールの片割れ、指輪が入った小箱、エトセトラ。「神サマ」とやらが片付け忘れたモノの残骸だ。)
2021/12/17 00:26 [112]
Unknown
2021/12/18 12:54 [131]
そうだねえ……(言ってから零す考えるみたいな間は、考える為のものではなく。緊張感など何も無いかのように、ふああと一つ大きな欠伸をした。「君が扱いやすいのがいたらいいよね」と、彼の意思を掬って告げる。)残ってたとしてもまともじゃないだろうなって思うのは僕も一緒。今日までにまだ居たのなら余計にね。でも僕、そいつは君に似てるんじゃないかなって思うなあ。(まともじゃないと示しておいての相似は、他人ならば失礼極まりないだろう。けれど此方は、「他」であるようで「彼自身」でもあるのだ。彼だってそう知っているように。だからこそ、面白いことも起きるのじゃないかとの発言だったのだけれど。)えー。じゃあ偶にならいい? たまぁに、僕が僕だけじゃなくていっぱいになるの。(彼の応が返れば自分の意思で行えますという話でもないのだが、そこに彼が興味を惹かれるなら可能性は上がるだろう。そも、此方が未だに一人きりの存在を保ち続けているのだって、彼が意識的にか無意識的にか、そう望んでいるからなのだろうし。撫ぜられる手には、擦り寄るように身体ごと寄せたがって。)失敗しちゃったのかもね。それで僕達が残った。あるいは――……(開かれて並べられる物が何かを知っている。それが後始末忘れのものでない可能性があるのなら、)……アダムが神サマに好かれてたか嫌われてたか、どっちかかも。(祝福か真逆か。問うことの出来ない存在が何を思うのかなんて理解することは出来ないが、想像することは出来る。あるいは何かの意図を以て、彼をこの地上にただ一人残した可能性を。尤もほんとにただ一人きりかなんてこと、確かめる術も持たなければ、自分だってまた、彼の傍に存在しているのだけれど。自らの発言を気にするでもないように、透けた身体だけがくるくると回って、一回転、二回転。)
2021/12/18 12:54 [131]
アダム
2021/12/19 04:08 [141]
俺みたいなヤツなら、とりあえずアンタとは上手くやれそうだな。(暗に「まともじゃない」などと形容されたとて、特に気分を害する様子もなく片眉を上げる。「それ」の言葉には裏も表も含意もないことを男は知っている。無論、己以外の生存者と巡り会ったとして、その者と「相棒」は邂逅を果たしはしないということも。それでも「たまぁにはな」と間延びしたイントネーションをなぞり、喉仏のような曲線を描く首元に手を伸ばせば、滑らかな皮膚らしき感触と人肌の温もりを指先に感じられた。男が何かにつけて相手に触れたがるのは、純粋な戯れに加えて、その存在を確かめたがる意図も含まれているかもしれない。)――……、(鞄の中身は男自身が文明の残骸から掘り出した生の遺物。それらを雑多に取り出しては並べる手が、途中で止まる。まるでホログラムのように質量を感じさせない動きで回転してみせる「それ」の姿を、神妙な面持ちで注視して。)好きも嫌いも、大して変わらねぇなあ。神サマっていうのは公平性が売りなのかと思ってたぜ。(数秒後、再び口許を緩めてみせれば、そこにいるのは普段通りのアダムだ。幼少期よりクリスチャンであった男は、神の存在を信じてはいても、神に盲従する気は更々ない。それどころか平気で天に唾を吐く真似もする。それでも彼の唱えた言説を根本から否定する素振りは見せず、机上に置かれた道具のひとつを指で摘んで取り上げた。硝子が割れ、フレームがひしゃげた、眼鏡のような物体だ。)俺たちがわざとこの世界に残されたっていうなら、こいつらは俺たちを愉しませるためのオモチャってところか?(手にしたそれを眼前にかざしても景色は変わらない。滅亡前の価値観でいえば「ガラクタ」に該当するそれらをいじらしくかき集めている自分を見たら、過日の己は何と言うだろうか。歪な黒縁で囲われた視界の先には、緑が生い茂る石壁と、翠玉のように澄んだ瞳がある。)それとも、こいつらも「選ばれた」モノなのかね。
2021/12/19 04:08 [141]
Unknown
2021/12/20 02:44 [154]
そうだね。そしたら寂しい?(彼以外と上手くやる。そんな仮定の話を引っ張り上げては、問い掛ける様は楽しげだ。彼に寂しいと言って貰いたいような、そんな顔で。尤も触れたがる彼に応じるように、彼に触れられるのが好きな「それ」でもあるのだけれども。偶にを許されたのだって嬉しそうに。未だくるくると回転させながら、その状態である当人は状態を気にもせずに宣おう。)神サマが公平なら、何で大洪水は起きたのさ。(辿るものは今の状況と似ていないでもなかった。ノアの方舟。邪悪を全て滅ぼす為の。ならば今の彼もまた、同じように選ばれた存在だとの考えは浅はかだろうか。そして今の現状になぞらえるとするならば、残されたがらくた達は。)それか、こっからどうにか増やしてけってことかなあ。……なーんて、アダム一人じゃ子孫も作れないもんね。(要するに今向かうのは結局滅びの道なのだ。近い未来に彼は居るが遠い未来にきっと彼は居ない。そしてそこには自分も。ならば彼のしていることに何の意味があるのか、自分が思うくらいなのだから彼も思ったろうか。結末の決まった物語。人間の絶える世界の話。)何もないとこから人間が生えてきちゃえばいいのになあ。(そうやって生まれゆく命なら、植物などと一緒に育てていけたろうに。言ったところでどうしようもないことは、空想めいて幾度も零れていく。)
2021/12/20 02:44 [154]
アダム
2021/12/20 23:24 [164]
(相手の願望を察してか否か、問いかけにはクツリと喉を鳴らした後、緑色の瞳をとらえて「妬けるね。」と頷いただろう。予想外に鋭い指摘が刺されば、意表を突かれた顔で暫し双眸を瞠り。)ハハ……一本取られたな。(相好を崩し、観念した風に肩を竦める。)アンタが本当の「イヴ」だったらよかったのになあ。そしたら俺たち、創世記に名前を残せたかもしれないぜ。 生えてくる……ねえ。(戯れの延長線上で言葉を連ねたとて、現実の状況は創世記よりむしろ黙示録に近しい。それでも御伽話めいた台詞を反芻すると、腕組みしながら机上の遺物を見下ろした。――そして、日が暮れかかり、地上へ戻ろうとする最中。石の隙間から差し込む光の筋がかろうじて足元を照らす程度の、薄暗い螺旋状の階段を慎重に降りながら、ふと口を開く。)なあ、きょうだい。コイツらを全部回収した後の話だが……、(「コイツら」が指すモノは背負った鞄を叩いてみせずとも相手に伝わるだろう。人間ひとり通るのがやっとの窮屈な帰路。位置関係によっては相手から見えないかもしれないが、前を向いた男の目は、暗がりの中にあってサファイアの結晶のごとく輝きを放っている。)埋めてみないか。世界の中心を探して、そこに深い穴を掘って。俺たちも一緒に埋まってもいい。そしたら……一万年後くらいには、生命の樹とやらが生えてくるかもしれないだろ。(楽園の中心に存在したという伝説の樹木。その存在を引用しながら、実現する可能性はゼロに等しいと理解していても、男は果てしなき未来の光景を自然と空想していた。――いまこの惑星に息づく生命はすべて死に絶え、まったく別の新しい生物が世界を支配しているだろう。そこに一つの芽が顔を出して、枝を伸ばし、葉を茂らせ、金色に輝く実をつける。樹木は成長を続け、世界のどこからでも見えるほどに大きくなって、それでいつか、地上のすべての生命がいっせいに一本の樹を見上げる。)〆
2021/12/20 23:24 [164]
Unknown
2022/1/6 23:12 [179]
(問い掛けたのは肯定されることを期待してだ。それでも妬けるの言葉が耳打つよりも、次に見えた彼の表情にこそ心惹かれる。そんなつもりはなかった、の結果が案外と上手くいくこともあるらしい。褒められたような心持ちで、嬉しそうに頬が緩んだ。)なぁに言ってるの。僕はね、何にだってなれるんだよ。アダムが望むなら。(彼が望んだ。意識的無意識的に関わらず、彼に望まれたからこそ顕現している。だから「それ」がもし本当に生えてくるとしたらその時だって、彼が望んだからに他ならないのだ。彼のよく知るだろう書物に綴られた物語について深く語ろうとしないのは、そんな論議をするつもりは彼にも自分にもないからだ。考えて話すのなら、まるで空想のような、けれど有り得るかもしれない物語の話をしていたい。彼との会話は取り留めもない他愛のないことがきっと多くて、――だから地上に戻る前に聞こえた声から始まる空想に似たそれだって、受ける感覚なら普段通りに感じるそれと何ら変わらない。)埋めて全部が一緒になって樹になるの? アダムって時々僕よりすっごいこと考えるよねえ。(思い付くままに、言葉の出るままに。そうやって口に出す自分よりも、考えに考えて吐き出された”すごい”思考の大きさたるや。肩を揺らして笑うのは面白そうなことを聞いたとの高揚感も手伝って。「でもさ」と差し出す続きは、彼の思考を否定するものではない。)僕とアダムはそんなことしなくても一緒だよね。(それが当たり前だと確信を持っている。彼はアダムでも自分は正しくイヴではない。実を食べるように唆す蛇も居ないけれど、食さずとも得られる知識は、経験は、開ける視界は、他ならない彼が手にしている。名前なんて何処に残されなくたって良かった。ただこの二人きりで独りぼっちの日常が、いつまでも続いていくことを望んでいた。そうでないことが彼にとっては一番良いことだろうにと、心の何処かで悟りながらも――永遠に。)〆
2022/1/6 23:12 [179]