クロウ
2021/12/23 05:38 [20]
(人はみな夢を見る。誰しもが何者にでもなれるし、誰しもが何者にならない願いだって叶う世界。それはともすれば、影が平素より口ずさむ主と二人きりの舞台、二人きりの日常ともよく似通っていただろうか。──故に、きっときょうこの夜の夢も。過日自分が熱く語った、或いは熱演し、彼女を主人公に仕立てた物語ともよくよく似ていたかもしれない。未だ世界は健全で、明るく、溢れる程の人間が満ち満ちていた。彼女がかつて歩んだ小さく括られた灰色屋根の日常とは真逆の、ひらけた世界において彼女の思うがままの自由が得られる──何かが少しだけ違っていたならば、歩んだかもしれない仮初めの非日常の物語。広大な海を見下ろしたある街の一角。彼女の役はさて、年相応の学生か、はたまたいつかに想像したことのある職業か──当てはまるカテゴライズに従事しているだろう相手の日常に、唐突な嵐のように影は割り込んでくる。)──キョウ! こんにちは、こんばんは、ご機嫌麗しゅう。今日もご機嫌な太陽に負けないチャーミングなお顔ですね。ああ、貴女にお会いできなかったほんの数刻の長いこと……一分一秒を刻む針の遅さは、まるで逢瀬の邪魔立てをするようだと思わずにはいられませんでしたよ。(ばあん、と隔てる扉を盛大に開き、胡散臭くもニッコリ満面な笑顔で闊歩しての登場だった。被るフードが珍しくない白髪をそよがせながら、彼女の前まで歩み寄り、許されるならば手甲への口付けを伴う。反応を伺ってみるのはほんの数秒のことで、返答や発言許可の有無を問わずに男はまた、開けば黙っておられぬ口を開いた。)時にキョウ。この後の予定はもう満杯ですか? …──たまには私めと、ちょっとばかり浮ついた陽キャイベント、もといデートに乗り出してみる、なんて予定は如何でしょう。(──本日の夢の趣向は、恋愛劇だった。まるで長年連れ添った恋人か、或いはヒロインに求愛をするもののように。期待たっぷりに爛と赤い眼差しを輝かせてはいたが、きっとその先は彼女次第。甘さも辛さも、彼女の選択であれば影は嬉々として受け入れるのだから。)
2021/12/23 05:38 [20]
キョウ
2021/12/23 22:56 [27]
(夢のなかでは何だって叶う。二階建ての一軒家、住み心地の良い我が家。優しい父母。下校途中の、友達との寄り道。足繁く通う、大きな図書館。そうした光景に自分が混ざっている。廃墟の中の書籍等で見かけた、ごく普通の学生の日常。知識として得ていようとも実感の伴わないそれは、薄くぼやけて過ぎてゆく。平和でどこかが欠けた日常にふいに区切りをつけるように、ドアノブに手をかけようとする。その扉は自宅か、図書館のエントランスか、はたまた別の場所か。しかしドアノブを動かす前に、目前で勢いよく開く扉。途端に降り注いだ快晴の光の眩しさに瞬きを重ね、思わず一歩、下がった。それから意識に飛び込んだのは、陽気な声音と現実離れした白の色。ぽかんと呆気にとられて。)……あ、あのねえっ、唐突にもほどがあるでしょう。(口を半開きにし、目をしょぼしょぼさせたこの顔をチャーミングと表す相手のセンスを疑う。じとっと重たく変化した瞼は、次にはまた跳ね上がった。自分の手の甲に寄せられる彼の口に対して、むず痒そうな気難しそうな表情になっている。ただ、拒みはしなかった。これは恋愛劇だと意識の底より浮上している。なんだかんだいってもクロウの劇はいつも最後まで鑑賞したがるから、今回も同様だ。甘さのない表情はそのまま、わざとらしく溜息をついてみせた。いかにも、仕方ないなあ、仕方ないからつきあってあげるのだ、と言いたげに。)で、でデート……デートね。えぇっと、陽キャイベント?そういう浮ついたやつは好みから外れるけど、たまには…たまにはいいんじゃない? ……それで、どこへ行くの?(逢瀬の経験など皆無ゆえに、恋人ごっこもぎこちない。そのくせ見栄ばかりは一人前で、頷きに鷹揚を乗せたがるのだった。内心では、これまでにない新鮮なシチュエーション、未知の体験に好奇心と期待が膨らみ、そわそわとした眼差しが赤く輝く恋人の二つの宝石に引き寄せられる。デートの服装はこれで適切だろうかと、己の体を見下ろしてみると常の分厚い上着もリュックサックも無し、身につけているのはカーディガンとプリーツスカートの無難な私服だ。)
2021/12/23 22:56 [27]
クロウ
2021/12/25 15:58 [48]
(彼女がよく通っていることを知っている、図書館の入り口。偶然を装い待ち伏せするにも、出逢いの場としてもこれ以上ない最適解だろう。さながら万華鏡のようにきらきら移り変わる彼女の表情の移り変わりを堪能し、楽しんでいる事が易々知れよう笑顔の主は、「分かりきった予定調和よりドギマギするでしょう?」そういけしゃあしゃあと嘯いて。素直にすべてを受け取ってくれる訳ではなかったとしても、取る手を拒まず、そのまま相対してくれるのだから、それらは彼女の一種の照れ隠しなのだと勝手な判断をしていた。だから聞こえてくるため息にぴんと伸ばした背筋がくじける気配もない。)ふふふ。初心と風格が絶妙なバランスですね。キョウが望めば『たまに』と言わず、毎日だって連れ出して差し上げるのに……──という話は次の演目にとっておくとして。行先の候補は決めてあるのですよ。(微笑みで応じた言葉は誉め言葉のつもりではあったけれど、どう受け止められるかは彼女次第か。もう少しつついて反応を楽しみたい気持ちも山々だが、本日の目的は別にあった。故に大手を広げてから、片手に示す先は木々に隠れた向こう側──住宅街や学園、図書館とは少し離れた先に広がる筈の、)海です! 星のめぐみ、地との狭間。あの水平線の輝きを見に行きましょう。本には書いていない、新たな発見があるとは思いませんか?(そうして、彼女が内にはぐくむ好奇心を少し煽るような言葉を選んで。パチン!と、よく鳴る指を一たびしならせれば途端、己の隣にはまるで今ひょこりと生えてきたような、大型のバイクが出現する。折角なら空でも飛べればよかったのだけれど、辿り着く前に目的地が見えたらちょっと勿体ない。スカートを履く彼女には少し恥ずかしい思いをさせるかもしれないから、難色が伺えるなら次の手段を探すつもりだ。ふたつのヘルメットのうち片方を差し出しながら──もし受け取ってもらえたならば。にんまり笑顔を深めて前に跨り、彼女の体温がしっかり後ろにある事を確認して、「しっかり捕まっていてくださいね」と一声、出発と相成る筈だけれど。)
2021/12/25 15:58 [48]
キョウ
2021/12/27 00:22 [62]
(明らかに楽しんでいる笑顔と見て取れば、どうにも悔しくなって眉間に一層の力が篭る。風格はともかく初心とは褒めているのかと、疑義と突っ込みの気分が起これば尚のこと、眉間の谷間が深まる。しかしそんな表情も、まるで王子様みたいなデートのお誘いの上での、行先の提示の運びとなれば長続きはしない。気になる提示に意識をもってゆかれる未熟さゆえに照れ隠しの虚勢も一瞬は忘れてしまい、いよいよもって視線を恋人の口元に据えた。)……行先の候補、決めてるの? ふうん……、海、(海――その単語を復唱した。対して頭のなかに漠然と広がったイメージは彼の言葉が耳に届くにつれ、どんどん色づいてゆく。示された手の先へ、またちらっと視線を走らせた。)クロウにかかればやたらと壮大になるね。まあ、悪くないんじゃない?(星のめぐみ、地との狭間、人類の様々な叡智をもってしても未だに未知を残す海。なんて考えてしまったのは恋人の影響だろうか。さておいても、今日この日の水平線の輝きは如何なるものか、想像を刺激されると鼓動が速まった。まだ知らない輝きかもしれない。素直さに欠ける返事を返して、小気味よい音とともに現れた二輪車に目をやる。夢ならば、任意の物を呼び出す魔法だってありえる。理解した気になって、当然のようにヘルメットを両手に受け取り、身に着けよう。スカートにいささか気は引けるけれど、夢ならばきっと多少はご都合主義が働いて問題ないはずだ。ぎこちなく四肢を動かし、どうにかこうにか彼の後ろに体を落ち着けた。「はい、出発」両腕を彼の腰に伸ばし、はじめはおずおずと、徐々にぎゅっと掴む。しがみつくというほうが正しいかもしれない。速度と風の圧力を感じれば瞼を閉じかけてしまうも、今度は潮の匂いに刺激され顔を上げる。きらっと光る一条が、木々の合間に流れた気がした。あれが水平線か。息を飲む。)ねえ、クロウっ。海に着いたら、空と海をいっぺんに眺めてみたい。鳥みたいに。このバイクって、飛べたりしない?(前方の体温にくっつきながら、到着後の要望を叫んでみる。風に負けないように調整した声量は、はじめての大きさだった。)
2021/12/27 00:22 [62]
クロウ
2021/12/27 19:37 [71]
(彼女が紡ぐ『悪くはない』を、実質の『良い』に置き換えた。その内側に脈づく拍動によってレンズ越しの双眸がいつもよりも煌々と輝いて見えているし、かぶる装具を渋る様子もなく受け取ってくれるのだから。ちゃっかり、かつうきうき跨る男は当然、バイクの運転方法に詳しいわけではなかったが、衣服越しに感じた掴まる体温と圧に頷き、彼女の号令に合わせる形ですんなりと二輪は走り出した。周りの車たちはまるで自分たちに道を開けていくかのように、ひらけた通りにぐんぐんと速度が上がっていく。衣服がはためき、うなる風と稼働の轟きはうるさい程なのに、不思議と寒さは感じない。あっという間もなく過ぎ去る景色は堪能するにはいささか急ぎ足すぎたが、人々の賑わい、街並み、木々と徐々に風景は移り変わっていく。きっと、彼女が潮を感じたタイミングに、運転者を演じる男もまた、目指した場所が近づいていることを感じ取っていた。あといくつかの曲がり峠を越えた先だろうか。けれどもそんな時に、これまた不思議と風音に邪魔されずに届いた大きな声色に、ぱちと両眼を瞬かせた。決してうるささなどなく、もっと聴いていたくなるような大きな玉音に、)──ああ、なんて贅沢で魅力的な願いでしょう! そして答えは勿論ひとつきり、貴女が望めばきっと何だって叶いますとも! ですが……(にんまりと、笑っている男の顔は後背面にいる彼女には見えない筈でも、声色から伝わっているだろうか。すぐ目前には、曲がるべき下り坂の急カーブが迫っていた。けれども男は減速することも重心を傾けることもなく、)──海についてからなんて勿体ない! さあ、今行きましょう。すぐ行きましょう!(まるでお誂え向きにガードレールがかけた崖から、最高速度をキープしたバイクはさながら飛び降りるかのように宙へと放り出されていた。二人分を支えるバイクはじわりと一旦下降の兆しを見せるけれど──次にアクセルを吹かした時。ぐわりと、浮き上がる感覚とともに舞い上がっていく事だろう。ぐんと視界が上がり、それまで遮っていた木々が開けて──きっと、彼女の望んだ絶景は、背に隠れた彼女の目にも移りこむだろうか。)
2021/12/27 19:37 [71]
キョウ
2021/12/29 01:12 [85]
(バイクの速度があがるほどに、肌に感じる空気のうねりが激しくなる。風音はすれども不思議と併走車の圧迫は訪れず、二人の進行はスムーズだった。スカートの裾もはためきはすれども控えめで、駆動の妨げにはならない。流れる去る景色の目まぐるしさに、胸の内側のリズムが高まる。目に耳に、そして両腕に、五感に受け取るすべてが刺激的。魔法の乗り手に要望を伝えた頃には、リズムは興奮の段階に達していた。またひとつ、自分の願いが叶えられると聞き取って感情を示すよりも先に、ですがの接続詞と、彼の声の含む音色に気を惹かれる。な、なに、とどもりがちに問いただそうとした矢先、進行方向に現れたガードレールの切れ目。道なりの急な曲線に連れ出されるかのごとく傾く体、エンジン音が耳を打つ。バイクの速度は落ちない。)え、ちょ、ちょっと、待、―――うひゃぁっ!!(その挙動は予想外で、心の準備はできていなかったから。本能的に情けない悲鳴を上げ、目を閉じ、前の背中に頬を押し付け抱きついた。頼れる場所はそこだけなのだ。運転の邪魔になる可能性だとかの思慮は、遥か彼方だ。内蔵の浮くような感覚に重力を察し、あ、落ちる、そう過ぎった瞬間、今度は別の浮き上がる感覚。数秒を経てもそれは続いている。そろそろと瞼を上げ、おっかなびっくり左右を観察してみると、)……、と、飛んでる。飛んでる。すごい……クロウ、すごいよ!(上体を跳ね起こし、加速する興奮のままに叫んでいた。眼下にはパノラマ。どこまでも続く、青い空と青い海のコラボレーション。その上に、視界の何割かを占める赤色。風に遊ばれる髪の先を、海鳥の翼が掠めて流れていった。この景色ごと飲み込みたがるように、大きく息を吸い込んで。双眸を細めて、水平線を眺めて楽しむ。)ほんとうに、願えば叶うんだね……クロウが叶えてくれる、のか。それなら、もう一つ欲張ってもいい? このバイク、海の中も走れたりする? ま、まぁ、無理にとは言わないけど。(彼の衣服を指先に捉えて軽く引っ張り、要望を重ねてみた。海面に魚影を見て興味を惹かれたのだ。この距離の視認は現実にはありえないが夢のなせるわざだろう。)あ、でも、海辺の恋人同士って、そういうのでいいの……?(ふとデートの設定を思い出して、少し自信が萎み、あわせて声量も下がった。デートにおける適切な行動を知らない。)
2021/12/29 01:12 [85]
(主と呼び慕う少女──自分を生み出した彼女の多種多様な表情を、影はずっと愛おしく感じている。日頃の静かな水面のような面も、じとっとした目にへの字の顔も、ひょんな事で覗く敬語も。今この瞬間、夢の中で描かれる一面だって。強く抱きつく力。上擦った声が示す感情がやがて高揚に塗り替えられ、密接になった所から感じる拍動が彼女の好奇心と生きる鼓動を強く主張していた。人々の街並みを見下ろすさまも、気づけば触れる風の強さも肌に優しくなっている様相も現実味には欠けていたけれど──すれ違う渡り鳥やもう少し高いところに浮かんだ淡い雲。広がる景色はきっと、彼女が生きている世界のどこかで今も尚、広がっているのだろう。彼女の嬉し気な声にご機嫌な笑顔を浮かべていた男は、次ぐ声にふと瞬いた。それから、背面にいる彼女にもわかるようゆるりと大きく被りを振る。)いいえ、……キョウがそう願ったからこそ叶ったのですよ。私ひとりでは決して成し得ない事です。──ですから、キョウにはお礼を言わせてください。この景色を私と見てくれて、ありがとう!(厳かぶった声は早々にしまいにして、後には身に余る幸福を負けじと放った。決して間違えてはいけない事だった。あくまでも自分の存在は彼女の好奇心、或いは前を向く気持ちが生み出したものだ。この夢が描く景色もまた。まっすぐに海へと飛んだ二輪は気づけば砂浜をすぐそこに見下ろしていた。徐々に落とす速度に応じて、ゆっくりと下降し始めていたが──ふと、次なる彼女の心が示す言葉に、後ろを振り向いて、「なよ竹の姫の難題のようですねえ」と面白がるように応じる。難題に答えられぬという意味ではない証左に、一度アクセルを吹かせばじわり、距離が伸びて着地点は深い水色へと向かせていたけれど。)おっと、……っふ、……ははは! そうでした。これはデートでしたね?(上がった口角のまま、思わず笑ってしまったのはこの夢物語の趣旨を自分自身、彼女の言葉で再認識したからだ。確かに、見る人によってはこれを恋愛劇ではない、SFだかなんだかと言う輩もいるかもしれないが、男はまた大きく芝居めいた仕草でかぶりを振るう。)何を仰います、キョウが楽しめればそれがデートでしょう! そして何より、私たちらしいではありませんか?(大衆の意見など何のその。甘酸っぱい場面がなくとも、この舞台の主演ふたりが思えばこれは、紛れもないデートなのだ。故に目標は変わらずに、斜め下を向いたバイクは次なる世界へと向かっていくだろう。朝が上るまで、時間の許す限り。今この瞬間は、ふたりだけの世界だ。)〆
2022/1/4 20:33 [117]