A:(どうかまぼろしであれ)
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2021/12/22 18:59 [9]
(授業の終わりを告げるベルが鳴って、君は目を覚ました。同時に、君はここが『君の高校』で『金曜の授業を終えたところ』だということに“気が付く”ことだろう。何の違和感もなく、君はそれを真実だと一度は飲み込んでしまうかも知れない。君の経験したことのない、けれど君が経験するべきだった、もう二度と手に入らない、なんてことのない日常のワンシーンが、当たり前のように目の前に広がっている。開放感から楽しげにざわつき始めるクラスメイトたちの顔を、君は知っているような、知らないような。君の想像しうる高校生らしい会話に勤しむクラスメイトたちは、話し掛けたのならごく普通に、当たり障りのない、昨日の延長線のような会話を君と交わすことだろう。そうして君が目覚めて数分。ちょうど教室内から用事がある生徒たちが消えて、人数のまばらになった空間に、馴染みのある音が響く。)真志。(《それ》は君のよく知る声で、君の名前を呼んだ。教室の入口へと視線を向ければ、一人の少年が君のことを呼んでいる。不思議な影が落ちているから、《それ》の顔を見ることはできない。ただ穏やかに浮かべられた笑顔と、やけに骨ばっていることだけが分かる大きなてのひらだけが見えることだろう。真志、と耳の内側で響くような声が再び君の名前を呼ぶ。)いこう、みんな待ってるよ。(君を手招く《それ》の口調は親しげで、優しい。君は《それ》が誰なのか理解できないかもしれない、朧げに思い出せるかもしれない。だからって顔も名前も分からないだろう。けれどきっと確信は持てるはずだ。《それ》が紛れもなく君の“唯一のともだち”である、ただひとつの真実だけは。)
2021/12/22 18:59 [9]
masashi
真志
2021/12/23 19:30 [24]
(目覚めの瞬間はいつだって憂鬱だ。寂しさも悲しさも苦しさもないあたたかな夢の世界から、寂しくて悲しくて苦しくて他人が存在しないひとりぽっちの世界に戻らなきゃいけない。──だから終業のベルで目が覚めた時も、まぶたを押し上げながら思いっきり顔を顰めた。"また目が覚めてしまった"と。然し。)…………あれ?(自分は机に突っ伏して居眠りをしていたようだ。おもむろに起き上がってあたりを見渡す間に、どうしてこんなにも目覚めが嫌だったのか、どうして憂鬱だったのか分からなくなった。と同時に、今日の授業はさっきので最後だったんだっけ、とか。誰も起こしてくれなかったのかよ薄情な奴らめ、とか。そんな"普通"の感想が頭に浮かんだ。顰めっ面が膨れっ面に変わる。自分の目覚めに気付いたクラスメートの男子が、『あっ!おはよ、爆睡だったな〜。』って笑ったので「起こしてよ!先生に呼び出しくらったらお前の所為だからな!」『居眠りした自分の責任だろ?』とやっぱり普通だなって感じの遣り取りをしつつ。部活だったり塾だったり、いろんな目的の為に教室を出て行くみんなの背をぼんやり見送った。ああそろそろ僕も行かなきゃ、って立ち上がったところに自分を呼ぶ声がした。よく知ってる声だったから、迷わず教室の出入口に目を向けた。)────ぁ、(影の落ちた顔を見ても、何故だか違和感はなくて。"ともだち"である彼の名前を呼ぼうとして出て来なかった事の方がびっくりした。"ともだち"の名前をド忘れするなんて馬鹿っぽくて恥ずかしかったからその事を誤魔化すように「なに?」とだけ尋ね返して。)みんな? みんなって誰?っていうか、何の為に待ってんの?(だって自分の"ともだち"は彼だけだ。他の誰が自分を待つというのだろうか。訳が分からなくて困惑の表情が浮かぶ。でも彼が──たったひとりの"ともだち"が呼んでるんだしな、とそれだけを理由に教室の出入口に向かう。)で。どこに行けばいいの?(そう首を傾げながら廊下に出よう。ここが夢だと気付かぬままで。)
2021/12/23 19:30 [24]
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2021/12/25 10:49 [45]
?? みんなはみんなだよ。僕以外の全員。知ってるだろ?(顔が見えないのにキョトンとしていた。まるで当たり前のことを聞かれたなぁと言わんばかり。「理由は知らないけど」と無責任に告げる、扉の柱に肩を預けて斜めに佇んで君を待っていた《それ》は、君が近寄ってくれば体を起こして共に歩み出す。日常の下校光景──教室の扉から一歩踏み出せば、途端、君はひだまりの帰路を歩んでいた。瞬きの間に場面が移り変わることが些細な違和感として君のなかに残ったとしても、ここは都合の良い夢の中なので、頬をくすぐる春の風と共に忘れ去られていくことだろう。君の隣を歩いている“ともだち”が、いつの間にか、女の子のかたちをとっていることも、同様に。数日前に君が侵入し、シーツを干して、ひとり眠ったあの部屋に飾られていた、幸せな家族写真の中央に映っていたふたつ結びの女の子の姿をしている。少しだけ君の好みに合わせて成長している程度の都合の良さはあったかも。相変わらず影が落ちた顔は見えないが、桃色の小さなくちびるが愛らしい笑みを浮かべて君を見上げる。)もうちょっとだよ。もう少しの我慢だからね。(声だけはずっと変わらない。君が先を行かぬように服の裾を引いて立ち止まらせたのなら、身長差ゆえに低い位置から伸ばされた、ぬくもりの感じられない手が優しく君の頬を撫ぜる。すりすりとかたちを確認するよな動きのあとで、指先が触れるような触れないような距離で耳元から首筋を伝い降りていく。そうして喉元に片手がふれたと同時にもう片方の手もそこに寄せられて、少女の小さいはずの手が易々と君の首を包んだ。)大丈夫。《僕》がちゃんと、僕を、連れて行ってあげるから……、(慈愛に満ちた囁き。突如、全身を持って君を押し倒した《それ》は、まだ少女のかたちをしているのに、女の子にあるまじき指の力で君の首を絞めはじめた。身動ぎしたとて振り解けない。呼吸は苦しいだろうか。視界は霞むだろうか。再び《それ》が君のかたちへと戻る。その全てはまぼろしではあるのだけれど、顔を寄せてくちびるが触れそうな距離で君を見遣る双眸は、底のない愛に濡れていた。)一緒にいこう。
2021/12/25 10:49 [45]
masashi
真志
2021/12/26 11:22 [54]
範囲があるでしょ、範囲が……。ってか理由も聞かずにメッセンジャーしてんの!?(例えば"クラスの"とか。"部活の"とか。ひとくちにみんなと言っても、大概の場合範囲ってものが決まってるだろう。不満げに眉根を寄せたかと思えば驚きに両目をカッと見開いたり、少年の表情はくるくる忙しなく移ろう。教室から見た時は間違いなく廊下だった筈の外側が、境目を跨いで出たら途端にプロムナードへ早変わり。あれ、と不思議に思いはした。でもその違和感は、まあ歩けばそのうち外に出るもんだよねと滅茶苦茶な理由で納得できてしまった。さっき男の子だった"ともだち"が突然女の子に変わっていても、はじめからそうだったと都合良く記憶が塗り変わって。自分とは人種の異なる彼女が同じ高校に通っていることにも、まるで違和を感じなかった。)別に、我慢なんかしてないけど。まだ歩きはじめたばっかりだし──…、……どうしたの?(まだどこにも辿り着けてはいないのに、彼女が自分を引き止めたから。どうしたんだろうって瞬きながら彼女の方を向く。少女の形をした指先が肌を伝うと、ちょっとドキドキした。喉元をその両手が包んでもなお普通の青少年のように異性の身体に胸を高鳴らせていた、けど──。)──ッあ、(流石に。流石に、止んだ。天地がひっくり返ったみたく突然身体が仰向けに転がって、首がきつく絞まりはじめた瞬間に。息苦しさに恐怖しながらも自分を絞め殺したがってる指を解こうと手を伸ばす。剥がそうと必死に引っ掻くけど、全然剥がせなくて焦りだけ募った。今頃になって漸く分かるようになった"ともだち"の顔を睨み付ける。)嘘吐き、(絞まって苦しい筈の喉からはっきりと。唾を吐くように、そう言葉を浴びせた。)一緒なんて、嘘! …独りだよ。僕は、独りだ。そうだろ、──アイ《僕》。独りなんだから、一緒、じゃない。(どこへ行こうとも独りは永遠に独りのまま、ふたりになることはない。一緒にいくことは叶わない。にわかに現実を取り戻しはじめた頭で自分と同じ姿かたちをした希死念慮の塊を見詰めよう。)……ところで、なんで女の子の姿やめちゃったの?(ふ、と睨むのやめて。また自分に戻ってしまった"ともだち"にちいさな疑問をぶつけた。)
2021/12/26 11:22 [54]
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2021/12/28 07:00 [76]
敢えて言うなら地球かなぁ。(戯言みたいな言葉のくせに、生憎至って本気だった。男子高校生の笑えないジョークとして流してしまうには穏やかな声色で、君の隣を歩く《それ》は笑った。そんな違和感も、どんな違和感も、これは夢なので納得の理由は全て後付け。君の日常を蝕む悪夢は、可憐な少女の姿をして、君の命の芽を摘もうとする。躊躇いもなく、慈悲を持って。眼差しは優しく君を映して、君の爪が指を引っ掻こうともびくともしない。指先に力がこもるごとに、かたちが“ともだち”に戻っていく。君に触れる指先も体重をかける重さも全て君が知っている君そのものだ。睨んでくる君の眼差しにさえ愛を向けていた双眸が、けれど君の言葉が突き刺さると同時に揺らぐ。眉が下がって、唇の端っこが情けなく緩んで、《それ》は君の前ではきっと初めて、少し寂しそうな顔をした。反論はなかった。言い訳も。君が独りだと嘆くのならば、それは真実でしかないのだから。──君が現実を思い出し始めたら、きっと悪夢に終わりが訪れ始める。きっと呼吸も少しずつ楽になることだろう。君に向けられる凶暴な愛のかたちも手を緩めて、身を起こせば君に馬乗りになったまま、少しだけ笑った。)……僕は本当に死にたいけれど、僕は誰に殺されたくもない。“みんな”に会いたいし、“みんな”と同じところへ逝きたい。でも僕はあの女の子を、人殺しにしたいわけじゃない……、だからだよ。(君が怪我をしそうなことからは君を遠ざけて、君が危険な目に遭わないように注意を払うことと、その指先で君の息の根を止めんとすることは両立していた。少なくとも君から生まれた《それ》のなかでは、僕が僕を殺すことだけが愛なのだと。)……それとも僕は、女の子の嘘になら騙されてあげる?一緒にいくの?それを僕が望むのなら、もう一度、あの子にしてもいいんだよ。
2021/12/28 07:00 [76]
masashi
真志
2021/12/28 21:42 [81]
地球。(指定範囲の大きさに思わず単語だけぽつと繰り返す。冗談下手過ぎでしょって笑うか溜息吐くかがたぶん普通の反応。だのに何故だろう、胸の奥がちくりと針を刺したように痛んで何の反応も返せなかった。そうして待ち人達の正体が判明すると、どこで自分を待っているのかももう知っている気がしはじめて。心臓が厭にざわつく。手のひらは汗ばみ、中途半端な気付きはひたすらに不愉快だった。──軈て気付きは完璧に変わり、少年は思い出す。地球上にいのちは最早自分だけで、クラスメートなんか存在しないことを。当然、通うべき学校も存在しないことを。僕《アイ》と呼んだ"ともだち"が自分の妄想に過ぎぬまぼろしだってことも、いっしょに思い出した。彼のかんばせに浮かぶ寂しさはきっと自分の感情だった。ひとりぽっちの旅路に寂しさを抱かぬなど、土台無理な話なんだから。いつもは口にせず飲み込み続けているだけで。)……そうだね。ずっと、そうだった。独りが嫌で堪らない。でも、僕を殺してくれる誰かはいない。いたら死んじゃう必要なんかないしさ。勝手にもういない誰かを殺人犯にしちゃうのも、気持ち悪いや。(自分が見て見ぬフリを続けている本音を、僕《アイ》はよく知っている。夢の中だからだろうか、素直に吐露までしちゃってる。その吐露を聞く方も話す方も所詮"自分"なのでただの自問自答だけど。神妙な面持ちで馬乗りの"ともだち"を見上げて溜息を吐いた。ちっとも重みを感じないのは夢だからか、彼がまぼろしだからか、どちらだろう。)……ううん、騙されてあげないし、一緒にいきもしないよ。本当のあの子がどんな子だったかも知らないのに自殺の道具にしたら、可哀想だろ。ほら、母さん、『女の子にいじわるしちゃダメよ』って言ってたじゃん。遺言は、守らないと。(勝手に見ず知らずの少女を死ぬ理由にしてしまうのは、性的な妄想のネタにする以上にいけないことだと思う。懐かしい母の言いつけを理由のひとつに上げながら、静かに首を横へ振る。)今はまだ、死んじゃう気、ないから。僕を殺すのはまたの機会にしてよ、──…"僕"。(自分で自分に命乞いをする。まるで二重人格だなって、昔読んだそういうひとが主人公の小説を思い出していた。)
2021/12/28 21:42 [81]
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I
2022/1/3 04:21 [115]
(《それ》は頑なに「僕は僕の真実を告げるだけ」なのだと主張していたけれど、或いは君が「そうであってほしい僕」こそが《それ》だったのかも知れない。いつだって君に向ける愛情たっぷりな眼差しも、滅多なことでは動揺しない落ち着いた立ち振る舞いも、寂しいを飲み込んで僕がいれば僕は幸せだよと嘯くくちびるも。幸せな悪夢の終わりが現実の訪れで、君が《それ》と向き合う時間だ。君の言葉に答え合わせは必要ないから、笑顔だけが返事のように。君の上に居る《それ》が纏う汚れひとつない洋服の胸元が呼吸のたびに膨らんだりへこんだり。君が重さを感じないのはもしかしたら、君が君の命の重みを知らないからなのかも知れない。母親の話が出てくればようやっと《それ》にも片眉を捻くれさせたよな笑みが浮かぶ。君の上から退くように地面へと手を付いて、)……きっと、僕が死ぬのを許してくれない、優しい子だよ。僕と同じ。両親にたくさん愛された子どもだったもの。どんな子かは分からないけど、それくらいはあの部屋を見ればわかるさ。(君が独りの寂しさに怯えていても《それ》が結局君を悪夢のうちに終わらせてしまえないのはきっと、君に残るアイこそが理由なのだ。それが例え、君が君の苦しさを終わらせることから遠ざけているとしても。)……死に損なったなら、目覚めることにしよう。もうすぐ夜も明ける頃だし、今日こそ保存のきく食料品を手に入れたいって、僕は言ってたからね。(言葉と共に立ち上がり、君のほうへと影を落としながら手を伸ばす。薄い影の落ちた《それ》の顔は、今は差し込む朝焼けのひかりに照らされて淡く温い色を帯びていた。──手を取り、君が起き上がれば、現実の君もゆっくりと目を覚ますことだろう。まだ頭上には透明感を取り戻した夜空と光り輝く星ぼしが見え、けれど地平線の向こうから少しずつ太陽の光が溢れ初める、ひとりぼっちの東雲。)〆
2022/1/3 04:21 [115]
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