(泣き虫と嘘つき。)
nay
ネイ
2022/1/2 07:07 [18]
(真っ白な冬空が寂しい、とある日。荒れ果てた住宅地の坂道に、ひとりの子どもを乗せた台車とそれを押す金髪の大人が、ぽつりとふたりぼっち。一週間ほど前まで有り難く勝手に拝借していたキャンピングカーはいよいよガス欠してしまい、ふたりは徒歩での移動を余儀なくされていた。なお、緩やかなペースで歩く友達と徒歩で移動するときはこのスタイルを確立している。友達は決して重くはなく、台車に乗せて押すことは然して造作もないことだったが、今日は昨夜降った雪が積もったせいで足場が悪い。そして中々どうしてこの土地はやたらと坂道が多かった。体力はある方だが、流石に軽く息が切れる。そんな折にバス停に備え付けられたベンチが目に入れば、素通りすることはできなかった。)はー……、……よし。ちょっと休憩しよ。メリーもお尻いた……くはないか。無いもんな。(などと言ってから気付いて、実に穏やかな揶揄に軌道修正。息の白さが寒さを物語る中、ベンチの上に積もった雪を落とし腰を下ろすなり、ジャンパーのポケットから煙草を取り出す。息が切れていようが煙草は吸いたい。火をつけるべく、いつもの要領でライターのヤスリ部分を親指で擦る。しかし。かしゅ、かしゅ、かしゅかしゅかしゅかしゅ。何度擦ろうが火が現れ出ることはなかったろう。いや、オイルが底をついていることは知っていた。一縷の希望にかけてみただけである。)ライターあるかな。遊園地に。(まあしょうがないと言わんばかりに薄く笑い、咥えた煙草をパッケージに戻しポケットにしまう。ともかく、本日の目的地は遊園地。一回行ってみたかったんだよねなんて屈託なく笑い、そんな単純な理由も添えて友達には今朝伝えたが、相変わらず呑気な終末暮らしと言わざるを得ない。)っし。んじゃ、行こっか。(一服したかっただけじゃないのかなんて邪推はさておいてもらうとして、早々に休憩を切り上げすっくとベンチから腰を上げた。少年も疲れていないようなら、台車の取っ手に手を掛ける。辺りは誰に汚されることもない真っ白な雪が積もっていて、太陽は無いのに、世界はちぐはぐに明るかった。)
2022/1/2 07:07 [18]
merry
メリー
2022/1/3 00:39 [27]
(初めのうちこそ台車に乗りなと促されるたび「あうくおお」と駄々を捏ねたものだけれど、今となっては友だちの出発準備が整うのを台車に乗って待っている始末だ。それにしたって今日の雪道坂道は大変そうで、進行方向と逆を向いて彼女の顔ばかり気遣わしげに眺めている。実際にかかる負荷としては気休めにもならないが目一杯触腕を縮こめて、ちょうど座っているくらいの高さから。)ねい、つかれた?さむい? めりーあへいき。(カイロ代わりにしていいよとばかり、こんな日にはずいぶん温かく感じられるだろうぬるぬるの腕を一本差し出す。また歩き出すときに焦らさないよう、自分はベンチへは移動しないまま。年中ブラウスにベストだけでもメリーはちっとも寒くなかった。空いている腕を四本ばかし使って、同時にふたつの雪だるまをこしらえる。少し大きいのがネイ。小さいのがメリー。こんなとき、ひとっ走りコンビニの跡地を探してライターをもらってくるよと言えたらいいのに、それはできない。)うーえんち…………さあびすえりあみたいのとこ?(海と同じく初体験の目的地は、彼女ですら未経験となればメリーにはいっそう縁遠い。口ぶりから楽しげなところらしいとは察し、知っている施設を記憶から引っぱり出す。いつだったか車で寄ったサービスエリアでは、スーパーにもコンビニにも置いていないようなちょっと変わったものが何かと見つかって面白かった。ああいうところならば)またー くるま、あるかも ………………?(は、と前触れもなく顔を上げ、遠く、まだ肉眼では見えもしない遠くを見つめる。真ん丸の目でまばたきふたつ。きゅっと口をつぐんで唾を飲む。)ねい、うーえんち! うーえんち、はいく!はあく!(行こっかの呼びかけに応じるのが遅れたのはこちらのくせ、遊園地と言われてちっともぴんときた素振りはなかったくせ、早く早くと手のひら返して急かしだす。取っ手を持つ手に不器用なほうの両手を重ね、がんばれがんばれと役立たずのエールを。)
2022/1/3 00:39 [27]
nay
ネイ
2022/1/4 21:31 [50]
(この真冬の中、彼女は少年が嫌がらなければニット帽をかぶせたり子供用のアウターを着させたりとしていただろう。一見やや過保護な行為にも見えるやもしれない。現に、少年は凍える空気を物ともしていないようであるし、自分だって漠然と、この友達は暑さも寒さも感じないのだともちろん分かっている。だからきっと、それは子どもが大好きな人形の服を着せ替えてやるような、幼い行為でしかないに相違無い。馬鹿みたいな話かも知れなかったけれど。)……ありがと。でもへーき。自分のほっぺでも暖めときなよ。(かじかんだ手はもはや、そのぬめりに臆する気概すら持たず触腕を握り込んだ。確かにわずかに感じられる湿り気は生暖かいような気がして、そっと返すように離しながら、遊園地の例えにサービスエリアを持ち込む少年の知識につい笑ってしまった。)や、多分。サービスエリアよりすごいよ。あ〜……食べ物は無いだろうし、遊具……遊べるものもほとんど無いかもしんないけどさ。(車も果たして未だ動ける、あるいは稼働できる処置が可能なものがあるかどうかといえば微妙すぎるところで、「車もどうかな」とよもや苦しげな顔をするばかりだが──はたと少年が遠くを見つめ、かと思えば唐突に急かし始めるので、なによと疑問符が浮く。無い無い尽くしの遊園地に魅力を感じたとは思えなかった。それでもふと、重なり合った両手に気持ちだけはあたたかくなって、容易く落ちるのは微笑だった。)ま、いっか。あたしも見たいものがあるし。(幼い頃、決して遊園地に連れていってもらえなかったわけじゃない。事実、植物園や動物園には母に連れていってもらった記憶がある。ただ単に、あの島には遠出という範囲にすら遊園地というものが無かっただけのこと。自分も友達も知らない、この目で見たことの無い未知の場所に行く。わくわくしないわけがなかった。可愛らしいエールに背中を押される形で、気張って雪道坂道を突き進む。)ねえメリー。あたしずっと聞きたいことがあったんだけど。(そんな折、何なら自分で思っているより、心持ちはずっと弾んでしまっていたらしい。)メリーの名前って、どんな意味なの? ("自分も知らない"ことを、"自分の友達"に教えてもらいたがるなんて、たぶん可笑しな話だった。台車なんて引けるはずもない深い積雪を、ひたすらざくざくと踏む、ただ一人の足音だけが世界には響いていた。)
2022/1/4 21:31 [50]
merry2
メリー.
2022/1/5 23:34 [64]
(暑くなくても寒くなくても、暑いだろう寒いだろうと世話を焼いてもらうのは好きだ。もこもこに着膨れるほどにメリーはふくふくと笑った。煙草を吸わずとも彼女の吐く息は白く、メリーの呼吸に色はつかない。)すごいぃ?うみくらい? うみぃ ごかったあ(初めての訪れ以来、海はすごさの代名詞である。拙い語彙の語り草だ。一転、夜の浜辺はもの寂しさの代名詞となっているがそれはまた別の話。轍のない道を台車が行く。いまだかつて彼女が進んだ跡以外には見たこともないそれ。今日もやっぱり行く手にはないことに、焦りと奇妙な安堵を同時に覚えている。)???(ごはんの希望やイエスノーの二択ならいざ知らず、友だちから知識を問われることはめずらしい。彼女よりメリーのほうが知っていることなんて、おおよそひとつもなかったからだ。真ん丸の目をもっと丸くして首を傾げる。よくよく考える。沈黙の間にも雪は積もっていく。彼女の肩に髪の毛に。よく考える。せっかく聞かれたのだから何か答えたかった。)…………めーりぃくぃすまーす のめーりぃ しょ?(メリーの意味なんて知らない。だってそれをつけたのは自分じゃない。クリスマスなら知っている。友だちと一緒に何度か過ごした。ひときわ夜の長い時期に、ありったけすてきなものを費やして祝う楽しい日だ。これなら毎日クリスマスでいいと思っても、ずっとというわけにはいかないらしい。そんな特別な日の枕詞。だからメリーもきっと喜ばしい言葉なのだと思う、の、ですけど……といったふうにおっかなびっくり、上目で彼女の反応を待つ。彼女は無事遊園地へ辿り着けるだろうか。そこでとくとくと音がする。聞こえるはずもない鼓動が、彼女が知らないことは何ひとつわからないはずの耳に届く。にゅるんと一本触腕を伸ばして、友だちの首元へ潜り込ませた。柔らかく薄い皮膚の下で、儚げにたしかに打つリズム。とく、とく。)とっ、とっ、 ばーんばれっ。 とっ、とっ、 ばーんがれっ。(脈拍と雪を踏む足への呼びかけ。これを逃したらまたずっと誰にも会えないかもしれない。本当は当たり前に寂しがりやの友だちには、本当のあたたかな腕が必要だ。がんばれ、がんばれ、あと少し、もう少し。どうかやさしいひとでありますように、彼女にやさしくしてくれるひとでありますように。出会ったその先を見守ることはできない、もし彼女が意地悪をされても慰めてはあげられない。黒く染まる髪。笑顔で願う前進。)
2022/1/5 23:34 [64]
nay
ネイ
2022/1/7 23:33 [83]
(海くらいすごい?そんなあどけなくて隙ばかりの質問に、うーんと唸り声を上げた。ともすれば、そもそも"すごい"の基準と定義があやふやになってきて、誤った教え方をしてしまったかもしれないなどと思い至る。それでも、少年は過日ふたりで見た海を気に入っているようだったので、それが何となく嬉しくて、「うん」「きっと同じくらいすごいよ」なんて、小難しい定義なんか無視して穏やかな声を落とした。どこか楽しげな発音で明かされた新事実に、あはっと白い息を吐き出して笑う。)そっか。でもたしかに、そうだね。メリーといると毎日楽しいし。ほら、クリスマスみたいにさ、毎日が特別な日。……──あ。そういやこの冬はまだやってないね。(日付なんてもう分からないけれど、いつか友達と終末世界でクリスマスを楽しんだ日も、今日みたいに雪の降る寒い季節のことだった。おそるおそるとこちらを覗く友達の目線に気付かぬまま、あるいは見ないふりをしたのだったか、そんな悠長な言葉をささやいた。明日する?とこの世でたったひとつの約束事を何とはなしにつぶやきながらも、滞ることなくざくざくと雪を踏んで足は進んでいく。しかしふと、がんばれ、と絶えず投げ掛けられる声に逆らって、ふ、と疲弊の息をこぼして立ち止まった。)……ん?どっちだよ。(息を整えるように台車の持ち手に突っ伏して、そこで少年の髪色が変わっていることに気付くのだった。友達は嘘をつくときに、あるいは自分とは真逆の感情を抱いているときに、髪色が変わる。頑張れの反対。頑張るな。つまりは無理はしなくていいということなんだろうか。)心配してくれてんの?(真相は分からなかったが、そう勝手に解釈して、自分の首もとで漂う友達の腕をそっと手に取った。)大丈夫だよ。あともうちょっとだし。(大丈夫、大丈夫、繰り返し言い聞かせるように、友達の腕をとんとんと指先で叩く。ぬめぬめした感触はやっぱりあたたかいような気がした。いや、気がしただけなんかじゃなくて、きっと間違いなく。再び雪を踏みしめる足音が響くはずだった。寂れた案内看板を横切る。遊園地まであと──その続きは塗装が削げて見えなかった。)
2022/1/7 23:33 [83]
merry
メリー
2022/1/9 12:38 [102]
きょおしよお。きょうがいい!(遊園地にたどり着くだけでもきっとくたくたの友だちに、躊躇いもなくわがままを吹っかける。今日はきっと特別な日。ごちそうがなくても贈り物がなくても、彼女と海くらいすごいものが見られるならそれだけでメリーなはずだ。彼女にとってもメリーな一日になればいい。)??? …………そお。ねいぁばんばりすぎうからねえ。(自分がウソ発券機も真っ青のわかりやすさを誇っていることにはいつも友だちの反応で気づく。笑顔のままに首を傾げて、合点がいってすっとぼける。上手く解釈してくれた彼女に話を合わせれば、それ自体は本心でもあったので、メリーの見目は波が寄せては引く繰り返しのように昼夜を行ったり来たりした。頑張りすぎる彼女にもう無理をさせないように、でも今日はもう少し頑張ってもらわなくては。書き文字が剥げて読めなくなった案内板。遊園地まであとどのくらいかはわからなくても、そのひとがどのくらい近くにいるのかはわかる。遊園地に留まっているものとばかり考えていた息遣いは、あるいはこちらに近づいてきているのかも知れなかった。呼吸と心音は友だちのものよりいくらか太く、しっかりとしている。彼女を助けることにも虐げることにも使えそうなその力強さが、メリーに期待をさせたし不安にもさせた。もしかすると彼女にもそろそろ、ここ数年においては極めて異質なその気配が感じ取れるかもしれない。)ねい。(もう小さな女の子ではない彼女にも、ひとりで生きていくにはこの世界はあまりに広い。すすり泣く夜の音がメリーの耳の奥にこびりついている。五本指のついた両腕を甘えて伸ばした。)ぎゅってして。めぇつむって。
2022/1/9 12:38 [102]
nay
ネイ
2022/1/9 21:33 [109]
きょお?無理だよ、プレゼント用意してないよ。(今日がいいとはしゃぐ友人に半ば気圧される形で、間延びした"今日"の発音が不意に釣られる。咄嗟に無理だと口を衝いたけれど、終末に用意できるクリスマスプレゼントなんて今日だろうと明日だろうとガラクタばかりなはずで、そもそも本当のイブが一体いつなのかすらも分かっていないのだから、この世界のメリークリスマスなる概念は自分と友人の気分によるものでしかない。言い換えてしまえば取るに足らない話で、そんなことより、まるでツリーの電飾みたいに髪色が暗くなったり明るくなったりしている友達に目を瞠った。)何よ。どうした?(自分の解釈が間違っていたのか合っていたのかも分からない。遊園地まであともう少しというところで足を止めて、少しかがみながら少年の髪をゆるやかに梳いた。やがて頬へたどり、愛でるというよりか伺うようなその手付きは、母親が子どもの熱を確かめようと額に触れる所作にも似ていたかもしれない。めりー。自分のものとは思えないほどやわらかい声で呼んでみた。──。しかしその声に混じって、どこか遠くで音が震えたような気がして、ぴたりと体が硬直した。その音というものを、たった一瞬で声と認識することなんて出来なかった。無理もない話だ。ひとえにそれは、かれこれ数年も感じることのなかった気配。)メリー、帰ろ。(どうしようもない恐怖を前にしたみたいに、何かしらの殺意から逃れるみたいに、──ともかく、たとえようのない不安が一気に打ち寄せてきて、急いた手足は台車を倒すようにして少年を抱きかかえ、自分の名前を呼んだ友達の声さえ無視して、躊躇もなく踵を返す。)やだ。しない。(ぬいぐるみみたいに抱えた少年が、自分の胸の内で両腕を伸ばしているのを見ようともせず、来た雪道を踏みしめた。行き場のない焦燥感に伴ってくれない身体が柄にもなく震えて、つい突き放すような言葉を吐いてしまう。何となく、目をつむったらすべてが変わってしまうような気さえしたからだ。しかしそんなものは知ったことではないと言わぬばかりに、声は着実に近付いてきている。知らない。何も聞こえない。そう返すみたいに、彼女はいよいよ雪道を駆けた。)あとでぎゅって、(するからと言い切るより前に、けれど雪に足をとられて身体が崩れていく。運命の分かれ道はきっと、そんな間抜けなものだった。)
2022/1/9 21:33 [109]
merry2
メリー.
2022/1/10 22:46 [123]
(きょおがいいのおと性懲りもなく駄々をこねて彼女を困らせるだけでもメリーは楽しかった。友だちはきっとメリーを叱りはしても嫌いにはならない。それだけの優しさを日々感じている。なんでもないよおというふりをして、ありもしない熱をくすぐったそうに測られて、その彼女の手つきひとつからにさえ注がれている。その声の柔らかさに、どうしようもなく込み上げるものがあるような気がして咄嗟に奥歯を食いしばった。目のふちから溢れそうになるものが、彼女の未来の邪魔をするとわかる。ぐ、と押し殺すものが堪らずはみ出てしまう前に、けれど)ねい…………っ!?(目に見えた異常をきたしたのは友だちのほうだった。足の遅い自分を抱きかかえて歩く、いつもの所作で彼女が元きた道を引き返し始めてしまう。)だえっ だめえっ!(焦って大きな声を出す。もしも彼女の耳に届くのと同じように、もうひとりの誰かの耳をもつんざけるなら、それ自体が鬼さんこちらのいい目印になっただろう。しかしそうではないから、運ばれながらだめだめ戻ってと彼女の足を止めるために肩を叩くばかりだ。)ねい…………(やろうと思えば触腕を引っかけて転ばすことだってできた。でもそうはしなくて、彼女が自分で足を取られて転ぶまで、無理やりに引き止めようとはしなかった。役立たずのメリーはくず折れた身体の隣に寄り添って、いたわしげにその背へ触腕を這わす。)ねい、いたいの……めりーあなおせないから。めりーがぎゅってぇても、ねいあ、あっかたくないから、(それしかできないから背中を撫でる。膝をすりむいたら絆創膏を貼ってあげて、お腹が空いたらパンを焼いてあげて、寂しい夜なんてひとつもないように、メリーがしてあげられたらよかった。でもできないから。)…………だいじょおぶ。こあくないよ。だいじょおぶ。…………やさしそおな、ひとだよ。(彼女が雪に残した足跡を辿ってきたのだろう。息を切らせて、佇む“彼”を、まずはメリーだけが見上げる。背の高い彼女よりもさらに大きい、見るからに頑丈な体をして、ひどく気弱そうな印象を与える青年だった。仕草はどこか女性的でもある。「どうして逃げるの」勇気を振り絞るように、震えるその声が話しかける。転んだ彼女を起こそうと、ぶ厚い温かな手のひらを差し伸べる。彼の目には見えないメリーもまた、励ますようにそっとささやく。)……ねい。だいじょおぶ。みえなくなるだけよ。いつもいっしょだよ。
2022/1/10 22:46 [123]
nay
ネイ
2022/1/11 03:14 [128]
(だめ。そう、胸の内で肩を叩きながら切実に訴える少年に、険しげに眉根を寄せた。それでも彼女は足を止めることなどなかっただろう。別に怖くなんかない。この広い広い世界でぽつりと生き残って、この国を一周してまで探し求めていたはずの存在が、きっと背後まで迫ってきているのかもしれない。生き延びるためにも、あるいはこの世界をやり直すなんて言い方だってしてもいいだろう。そのためにはきっと、この孤独に終止符を打つしかない。だけどそんなのは、ただのつまらない理屈だ。特別でもなんでもない当たり前の話だ。そもそも自分は、一人なんかじゃない。自分はずっと、友達とふたりでいた。今日は遊園地に遊びに行く予定で、明日はクリスマスの日。明後日は雪が溶けてないなら雪合戦をするのもいいし、明々後日はそろそろ春服を探しに行ってもいいかもしれない。そんな日々でいい。そんな日々がいい。たった一人の生き残りでもぜんぜん大丈夫。だってあたしには)違うよ。いらないのそんなの。痛いのも寒いのも、あたしはへっちゃらなの。(まるで自分を役立たずみたいに言うけれど、この友達はまるで分かっていない。背中を撫でてもらいながらもそう言いたげに、口早に告げるなり冷たい雪道に手を突く。とっくに赤くかじかんでいた手のひらは真っ白な雪に沈んでいった。こんなのだって別に辛くもなんともない。)だから怖くなんか無いんだってば!!あたしはッ──(まるで自分が居なくなっても大丈夫みたいに言うけれど、やっぱりこの友達は分かっていない。怖いことがあるとするならそれはたった一つだ。もどかしくて不意に声をあげてしまったけれど、決して喧嘩がしたいわけじゃない。しかし、存在を認めたくないもう一人にも、その声は届いてしまったのかもしれなかった。本当にいよいよ、すぐ後ろで聞こえた声に、この期に及んでまだ必死に聞こえないふりをして、それでも──いつもいっしょだよ。その声に弾かれたように顔を上げて、図らずも誰かの言葉の通り、ぬいぐるみを抱いて目を背ける子供みたいに、ただただすがるような表情で友達を抱き寄せた。)メリー、(どこにもいかないで。果たしてそんなわがままな思いが届いたかは分からない。抱き締めた頃にはもう、いつもなら感じ取られるはずの感覚はすでに無かったかもしれない。違う。無くなってしまった。メリーはいなくなってしまった。誰かが差し出してくれた手なんて未だ知らぬまま、雪はいつの間にか止んで、ようやく幕を開けたように晴れ渡っていく。そんな世界で、えーんえーんと一人の泣き声が響く。日差しが背中を覆い、ついさっきまで感じていた確かな暖かさを思って、また涙は溢れだす。そんなこと知るわけもない誰かの手が同じように、あたしの背中を撫でた気がした。)〆
2022/1/11 03:14 [128]
merry2
メリー.
2022/1/14 17:01 [139]
(悲しませたいのではなかった。彼女が悲しまないためにいるはずだった。違う違うと駄々をこねる友だちに少し戸惑う。メリーはネイとでたらめなクリスマスのお祝いがしたい。雪の下からかわいらしく顔を覗かす蕗の薹を集めて、ほろ苦いお鍋をはふはふと頬張りたい。彼女のふかす煙草の煙が灰色の空に溶けていくのを、他に何をするでもなくただ眺めていたい。そんな日々が続けばそれでよかった。メリーはそれがよかった。だからネイの強がりを信じたくなる。すっかり大人になった彼女は強く逞しく、ふたりぼっちもへっちゃらなのだと。彼女が悲痛に言い募るほど、紫の瞳は微笑んだ。)ねい  あいがと。(本当は笑ってほしかったけれど、メリーのぶんまで泣いてくれているのだと思う。彼女はまだ涙をこぼしてやしないのにそう思った。ネイは小さな女の子だ。どんなに大きくなったって、ひとりで何もかもできるようになったって、さみしがりの小さな女の子だったネイがネイの中から消えてなくなることはない。思ったのとは違う形で望んだ通りに抱きしめられて、ふくふくと心底幸せそうに笑う。これは嘘、これが本当。ネイの腕の中はあたたかい。ネイの叫び声が胸を裂く。ここにいてと言ってくれて嬉しい。決まりきったさよならが悲しい。ふたりぼっちでへっちゃらの彼女は、ひとりぼっちを思い出すたび、やっぱりどうしようもなくさみしいのだと知っている。)ねい ゆめによんでね またあそぼおね  ねい(ささやく声がいつまで届くか。見えなくなるだけ、ずうっと一緒。明日からの彼女にはきっとたくさんの喜びが待っているから、ぜんぶをちゃんと受け取れるように、一度見えなくなるだけだ。できればこの先もう二度と、メリーが要るようなことにならないのがいいけれど、どうしても悲しくてやるせない夜にはひょっこりまた会えるのかもしれない。気休めに気休めを塗り重ねる。そうやって自分も納得させる。まだいなくなってみたことはないから、あながちぜんぶ嘘とも言い切れないはず。元より本当は音を介していなかったやりとりだ。彼女のなかに溶けて消えるついで、最後の横着。不器用な舌っ足らずに乗せずとも、伝えたい本当も嘘もぜんぶがネイの胸に広がりますよう。)ねい (呼んでくれてありがとう。抱きしめてくれてありがとう。愛してくれてありがとう。愛させてくれてありがとう。────ゆきが、やんだよお! 泣きじゃくる顔を上げさせたくて、嬉しいニュースで笑わせたくて、真っ赤な手を取り温めたくて、 ぱちんとあぶくが弾けて、それでおしまい。)〆
2022/1/14 17:01 [139]
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