(こんな世界になって、少年は車の運転に慣れた。あてどなく進み続けるのに脚だけでは限界があるからと、記憶を真似てどうにかこうにかチャレンジしてみたものが、何とか板についてきた状態。街で見つけた食糧や新しい服、日よけのパラソルなんかを積んで、法も何もない世界を走ってゆくのは、適当な駐車場で見つけたオープンカー。助手席、は少々狭いので、後部座席にふわふわの相棒を乗せて。)やっぱさあー!夏といえば海じゃん?でも俺実は、行ったことないんだよね。ハオユーも初めてー?(自分達のほかに大した音源もないから、運転中でも大声で尋ねれば何とか聞こえるはず。――キャンプをしたり映画を観たりした初夏から暫くの日が過ぎて、暑さが勢いを強める今日この頃。「そろそろ真夏だから海に行こう」と提案した少年は、ちゃっかりはしゃいだサングラスまで装着済み。とはいえ、年中あたたかそうなからだをした相棒にとって炎天下の屋外は苦だろうと、陽の弱まった夕方のドライブとなった。地図を頼りに車を走らせれば、無事、名前も知らない海水浴場に辿り着く。)海だーーーーっ!すげえ、超良い時間に来ちゃったんじゃね?めちゃくちゃキレイじゃん(燃えるように真っ赤な夕焼けが、水面まで染め上げるような真夏の黄昏間近。結局サングラスも外した幼いまなこが、きらきら光って親友を見つめた。車を降りて今にも砂浜へ駆け出しそうな勢いで、一緒に行こうぜ、と言うように。)
2022/1/2 22:42 [24]
(ぶるんぶるん。エンジンの音に呼応するようにふくよかなおなかのお肉がゆれる。整備する人間が誰もいなくなった道は少しずつ綻びを見せ始めているのか、もしくは無免許運転の彼の運転が荒いのか、時折がたつく車体に「ともりぃ〜!あーんーぜーんーうーん−てーん−!」とビブラートを聞かせながら注意をしながらも、その声はいたく楽しげだった。)海なんて聞いたことがあるだけだよ〜。そんなに楽しいところなの〜!?(後部座席いっぱいに寝転んでドア部分に頭を預けたパンダは、彼の真似をしてかけていた特大サングラスを頭部へずらしながら答えた。夕日が姿を隠していく地平線、その向こうにまだ見ぬ海とやらはあるのだろう。過日のキャンプといい、今回の海水浴といい、彼はアクティブなきらいがある。本当は夏と言えばクーラーと声を大にして叫びたいパンダも、親友が楽しんでくれるのであればと重い腰をあげていた。ドライブだって夏の日差し輝く昼間にした方がきっと楽しいだろうに、自分のためにと時間を遅めてくれているその優しさを無碍にもできないし。なんて思っていれば、ゆっくりと車体のスピードが落ちていく。どうやら海とやらに着いたようだ。)えぇ〜…………おっきな水たまりじゃあん…………(かつてないほどテンションが上がっている彼の後ろで、困惑の声を上げる。確かに夕日が水面に煌めていて綺麗だとは思うけれど、そんなの彼の瞳だって同じことだと口元をまごつかせた。それでも今か今かと走り出さんばかりの彼の様子が面白くなってきて、)まあいっか。海、入ってみようよ〜(と、よいしょと進んで車を降りた、そんな時だった。)――、(ふいに動きが止まって、何度か瞬きをしたのちに徐に海へと視線を投げる。耳をひょこひょこを動かして感じ取ったのは、この水平線の向こう側――と言っても島や国境を超えるほどではなく、それでもここからはかなり遠くの砂浜、そんなところにどうやら彼の仲間がいるようだ。数は三人ほどだろうか?気配だけしか読み取れないものだから、どんな人たちかの区別もつかない。彼にとって、安全な人間であるかどうかも。)……ほら、ともり、いこ?(不自然に開いてしまった間を取り繕うように、運転席のドアを開けて彼を引っ張り出した。その後はなんとなく、ただなんとなくくっつきたくなって、おんぶお化けのように後ろに抱き着いて歩いていたから、もしかすると砂浜に倒れてしまうかもしれないけれど。)
2022/1/4 19:04 [47]
(もとよりそういう気質だったことに加えて、唯一無二の親友が何だかんだで付き合ってくれるものだから、アクティブさにも拍車がかかる今日この頃。そうしていれば、こんな世界でも楽しいし。後部座席からの質問には「ハオユー、サングラス外しても目のとこ黒い〜」と笑い声で返したけれど、愛らしい耳には届いたろうか。ちぐはぐな会話でも、楽しげなトーンはおそろい。やがて辿り着いたはじめての海について、親友の反応には目をまんまるにして振り向いた。)水たまり!?いや、……いや、そうっちゃそう……?まあとにかく、“おっきい”とこが良いんじゃんか。な!(うんうんと頷く紫の瞳にあかいひかりが反射する。もうドアを開けようかとしていたところで向けられたお誘いに「話早いじゃん」と歯を見せて笑うけれど、ふと、親友のペースが不自然に澱んだもので、こちらの口角もゆっくり、ゆっくりと下がっていく。何かあったみたい。)? ハオ、 (名前を呼ぶ声は、ドアの開く音とやさしい声に遮られた。遮られた、ような気がした。「……うん?」とまだスッキリしない語尾で誘われるままに歩き出して、育ちきっていない細い背中にまとわろうとする親友の表情を見ようと顔をぐるぐるさせるけれど、いたちごっこのようになったかもしれない。)なぁんだよ、重い−−っわ、!(そうこうしてる内に足を縺れさせて、どさ、と砂浜へ倒れるのはお約束。しろくろでふわふわなからだが砂だらけになっているのを見れば、自分も髪やら頬やらに砂をつけたまま、おかしくなってけらりと笑う。)っはは、もー、何だよ!何か変だよ、お前。あ、もしかしてこわいんじゃねえの?海。(座りなおしながら、仕方なさそうに立てた予測はまったくお門違いか、あるいは。いつか学校の友達にしていたみたいに、どん、と肩をぶつけるように身を寄せれば、砂浜も親友のからだもあたたかかった。確かに。いたずらっこのような顔をして、そのかんばせを覗き込むことは、今は叶うだろうか。)
2022/1/6 18:20 [70]
(エンジン音にもかき消されることなく、彼の声限定で高性能な耳には勿論可笑しそうな笑い声だって聞こえていた。お揃いのサングラスで自分もばっちり格好よくキメていたつもりだったから、不満そうに頬を膨らませて運転の邪魔にならない程度に後ろから彼の頭を小突いたりした、そんなドライブの時間。)おっきいのがいいなら、ぼくだっておっきいでしょ〜……?(大きさだけに魅かれるということであれば、巨体のパンダでも十分に満たされるはずだと不思議そうにして。暑いのは苦手だから水浴びできるのはいいけれど、それ以上の魅力をまだ感じ取ることができない獣だ。果ての見えないこの水たまりはなんだか不気味で、この水たまりのふちを辿っていた先にいるだろう人間と一緒に彼を連れて行ってしまうような、奇妙な感覚に襲われる。――まだ待ってほしいなんて、そんな気持ちを抱いてしまうのはひどく傲慢だとは思うけれど。)お、おもっ……重くないもん!ぼくまだ子パンダなんだから〜!(砂まみれでじゃれあって、冗談を言い合って、こんな風に笑いあえる時間はきっと残り少ないのかもしれない。変だなんて目ざとく自身の変化に気付いてしまう彼のことだから、きっとあの人間たちのこともいずれは。こちらを覗き込む彼からぷいと顔を背けるのは、体重のことを言われて怒っているからだと勘違いしてくれたならいい。それからしばらく、ザザンと波が押し寄せる音だけを聞いていた。心を凪ぐような、そんな音。)ともり、(こわいよ。海に吸い込まれそうな声が落ちた。)あのね、……海のうんと先に……人間が、いるとおもうんだ。(真っ白な腕を上げて、先ほど気配を感じたほうを指す。)ぼく、ともりと離れ離れになるのがこわくなっちゃったみたい。おかしいよね、元々…………(続きを言葉にするには成熟しきれていない精神が口を噤ませた。それでもずっと"だれか"を探していた彼に隠しておくことは親友としてできなくて。重いと文句を言われても今度は気にすることなく、自ら彼の肩に頭を寄せた。)
2022/1/8 17:53 [92]
(予想外のお返事には、目をぱちくりとさせてから)あはっ、そうだな。でもハオユーはもっと大きくなんじゃない?俺もだけどさ。(からりと笑って、まだまだ子どもな自分たちのこれからの話。大きかろうとそうでなかろうと、君のことは大好きなわけだけど。それは他愛もないやりとりをする今だってそうだし、明日もこれからも変わらないことだ。いくら希望を抱いて歩んだって、長らくこの世界にはふたりぼっちだったから、明日もこれからも同じ日が続くような気が正直している。なあそうだろ、と確認したいような気持ちになるのは、愛すべき親友が、その顔をこちらへ向けてくれないからか。ぽつんと落とされた呟きを聞き逃すにはあまりに近すぎる距離で、うまく拾って笑ってやるには、続く言葉があまりにも、) ……え?(冗談にしては、きっと一度も聞いたことのない類のものだった。あてどない冒険の中で、この先に誰かいるかも、って言い続けたのは自分ばっかりだったから。)そ、っか。……そっか!本当だな!?うんと先ってどこだろうな。どうやったら会えるんだろ、なあ、それじゃあ明日は船とか、(捲し立てるように騒ぐのは、どうしてだろう、嬉しい感情からではないような気がする。確かに誰かを探していたのに。続けようとしたと明日のプランは、線の細い肩にのったやわらかな頭の重みで、はた、と止まった。) ……はなればなれ?(波の音に消されそうな声が落ちる。ーー少年はきっと、麻痺をしていた。唯一無二の親友がどうやって生まれたとか、何者だとか、そもそもどうしてパンダが喋るんだとかーーいつどうすれば別れが訪れるのか、だとか、そうした全てのことに蓋をして、数年間を生きてきた。すぐとなりの親友の顔を見ることができない。)は、はは。ならないよ、離れ離れなんてさ、お前がいくら重くっても、動きたがんなくても、連れてくからさ、海の向こうまで!だからそんな……そんなこと、 (ぎゅ、と手を握るだけじゃ足りなくて、そのからだに抱きついた。これまで何度もそうしたように。真っ赤な夕焼けと大きな海原がこわくて、喉がひりついて、声が震える。)そんなこと、言うなって、 ……ハオユー。俺を、ひとりにしないで。
2022/1/10 17:50 [118]
ハオユー
2022/1/14 01:01 [137]
うん、ほんと(ああ、やっぱり喜んでくれた。そんな風に安堵した、否できてよかったというのが正直な感想。彼のために生まれた自身は、世界のすべてが敵に回っても彼の一番の味方であらねばならない。そんな自分が、寂しいだとか離れたくないだとか、そういった自身の感情よりもまだ彼の喜びを優先できていることにひどく安心してひっそりと胸をなでおろした。どうやらまだ彼の親友でいる資格はあったらしい。彼に寄り添ったまま、安心感と彼のはしゃぐ様子に心とは裏腹に笑みが浮かぶ。船を作るつもりなんだったらまずは作り方から調べなきゃ、そんな助言をして己のネガティブな発言を流してしまった方が良かったかもしれない。だって、彼の動きが、声が、)…………ともりぃ、泣いてるの?(いつも元気で、自堕落なパンダにぷんぷん怒ることはあったけれど、泣いているところなんて殆ど見たことがなかった。そのせいか気の利いた慰め方だって分からなくて、短い腕を彼の背中に回して抱きしめ返した後、そのままさすってあげることくらいしかできない。)ぼくもどこにだってともりと一緒にいきたかったよ。だってぼくはともりの親友だからね!………………でも、ほかに人間がいるんだったら、ぼくのポジションはその人たちにゆずってあげなくちゃ(時折ぽんぽんと背中を叩いて、歩くよりも遅いスピードで言葉を紡いでいく。)ともりはひとりにはならないよ。確かにぼくはいなくなっちゃうけど、代わりに今を生きる、ともりと同じ人たちがきっとそばにいてくれるから(はなればなれになることを悲しむのが独りよがりの感情ではなかったことを嬉しく思いながら、でもそれは彼の道を邪魔するのだろう。彼の人生を共に歩めないことに対する諦めにも似た感情を浮かべて。)まあ、最後はともりが選ぶことだけど……(頭を撫でて、その身を彼から離した。彼が他の人たちに合流する道を選んだとしても道案内のために当分は一緒に生活していくつもりだし、もしそれでも自分といることを選んでくれるのならそれはそれで嬉しくもあるけれど。選ぶ権利は生きている彼に託して。どんな未来が訪れても、たとえもし彼が自分を認知できなくなったとしても、心はずっとともに。)〆
2022/1/14 01:01 [137]
…………っ(素直に認めたくない思春期の意地はあれど、泣いてない、なんてうそはあまりにもバレバレな自覚があるものだから、ただ鼻をすするしかできずに。ふわふわのまあるい手に背中を撫でてもらえばもらうほど、そのぬくもりを失いたくなくて、鼻の奥がつんとしてしまう。聞き慣れたスローテンポな話し声がいつにも増して優しく聞こえるようで、ぐりぐりと額を押し付けた。そんなとくべつな雰囲気を出さないでくれ、本当にお別れが近いってわかってしまうから。)…………お前も一緒でいいじゃん、譲るとか……代わり、みたいな、そういうのじゃないじゃんか、("かけがえのない"なんて言葉は、こんな場面でも口をつきにくいんだってことを初めて知った。一番伝えたい時なのに。説得のようなわがままのような語調であれど、間に挟まる沈黙は、親友が浮かべた感情によく似た心模様のせいだった。熱いまぶたを閉じる。 ――ずっと誰かに会いたかったのは、会いたがったのは、希望を持つためであり、生きるためだった。それは、幼い自分とまぼろしの―すっかり忘れていたけれど、本当はまぼろしの―親友とのふたりぼっちじゃあこれ以上どうしようもないって、分かっていたからこその原動力だったのだろう。心臓がばくばくと音を立てる。俺は生きている。生きていくためには、おんなじ道を歩めない。あたたかでおおらかなからだから身を離され、濡れたままの瞳で親友のかおを見つめた。まだ、見つめられる。)、……海なんてさぁ、来なきゃよかったかな。(へへ、と笑って、これで弱音はおしまいにしよう。まだもう少し、大好きな君といられるなら。) なあ!明日からも一緒に冒険してくれるだろ?その人たちのこと、見つけるまで。……こっちが先に見つけて、驚かしてやろーな!ハオユー!(すうっと一息吸い込んで、しろくろの手を取って、明るくした声で勝手に約束をした。真っ赤な夕焼けと大きな水たまりと、昼間の熱の名残りを宿す砂浜がふたりを囲む、夏の夕方。お別れをもう少しだけ先延ばしにして、今日は海にでも入って、いつもみたいにハグして眠ろう。のんびり屋でちょっぴりわがままで憎めなくて、いつだって優しい親友と、たくさんの思い出を残さなくちゃいけないから。)〆
2022/1/14 22:32 [141]